大帝没後

大正時代というと激動であった明治・昭和と違ってやや影を潜めたというイメージがある。なにせたった15年しかその時代はなかった。「一世一元」が定められてから最も短かった時代である。

しかしそのなかでも「激動」はあった。大正デモクラシーである。それにより原敬という平民宰相が生まれ、戦前の民主主義を象徴する時代でもあった。しかしそれと同時に社会主義運動の時代が活発になり始めたのもこのころであった。

本書では2つ大きな特徴がある。1つは天皇崩御の時の風潮、もう1つは乃木大将の割腹自殺についてである。明治天皇が崩御された直後は様々なところで崩御への哀悼の意をこめ官報をはじめ民間の新聞でも小説や事件等を自粛するということがあった。これは昭和天皇崩御の時も通程するものがあり、崩御直後では多くの会社や店先、そして新聞でも追悼の意を述べたり、半旗を掲げたりしていた。TVに至っては昭和の時代を振り返るような自粛放送が終日、中には2・3日続けていた。明治天皇にしては夏目漱石が激怒したというところも印象的であった。

そして天皇崩御も連なるが大正天皇がなくなったと同時に乃木大将も割腹自殺を行い天皇の後を追ったという話である。私自身は「殉死」という誠に高貴な死に方であり、さらに遺言で爵位と家を絶することを指示していたなど、(大正)天皇への忠誠の強さがどれほどのものであったのかというのには畏敬の念が表れた。しかし、当時の高等遊民(今で言う「スネかじり」)は、「バカな奴だ」と冷たくあしらったことには怒りを覚えた。