「成り上がり」の人間学

「反転」でおなじみ、「闇世界の守護人」こと田中森一氏の渾身の作品。本書が入稿された後の3月31日に収監なされたため本書が収監前最後の作品と言えるのではないだろうか。

本書を読んだ率直な感想としては、著者の印象として非常に厳格であるが、反面非常に人情深いところ、懐が深かったことにより闇世界に生きる多くの人との交流ができたのではないかと私は思う。本書を読んでわかるのが許永中や五代目山口組若頭であった宅見勝の人間的な「深さ」を垣間見ることができた。

確かに許氏は事件によって逮捕され現在は服役中の身だが犯罪者であるから性格が悪いという印象は本書で払拭したほうがいいと私は思う。また「ヤクザ=悪」ということも限らない。むしろ「必要悪」ということを考えるとヤクザの世界というのは必要であると私は思う。しかし、田中氏が言うようにヤクザの世界というのはたたくのではなく関わらないことが安全であるという。これについては私自身よくわからないので著者の言う通りにしたい。

本書の終盤には日本の若者たちのために「田中森一塾」をつくられたという。これについては非常に画期的であり、我々若者たちのためにと思うと感無量である。最近ワーキングプアなど非正規雇用により日本に希望を持てなくなった若者が多くなり、「蟹工船」といった本が飛ぶように売れるようになった時代である。だからでこそ日本の未来を担う若者たちに希望を持たせ、切り開く力を与えるような教育を求めていた。この塾にはそれがあるのではと思う。