仕事の9割は声で決まる!

上司との対話、会議、プレゼン、そして顧客先との交渉。仕事というのは単にデスクワークでやればいいというものではない。当然会話も仕事のうちである。しかし世の社会人は話すこともおろかまともにしゃべることがない、または会話に自信がないという人が多くなっているのも事実である。当然仕事上ではコミュニケーション力がものをいう。仕事に関する本もコミュニケーション法に関するものが乱舞している。

本書はそういったコミュニケーション術とは一線を画している。仕事のほとんどが声で決まるという見るも不思議な1冊である。

ちなみに本書の著者は声楽を専攻しており、バリトンの歌手としても活躍している。一方ではボイストレーナーとして、交渉の理論や発声法などの研究も行っているという。
さて、「仕事=声」の理論についてみてみよう。

第1章では上記に至った理由について書かれている。確かにプレゼンでは声のメリハリ、緩急のあった人の印象が強い。どのように論理的で納得のいく説明があっても単調な話し方ではあまり聞いてくれないのがオチだという。しかしそれではなく強調したいところを見つけてそこだというところで声のトーンを上げていく。当然話し方も強調したいところにめがけてゆっくりとなる。まるで1曲の音楽を奏でるようなものだろうか。私自身そう思えてならない。そして交渉事も声で決まるという。

ここぞという時には感情表現と論理表現のシフトチェンジが大事であり、そして場面状況に応じて声のトーンも変えていくことも大事である。言葉にはTPOが大事である如く、声のトーンにもTPOは大事である。論理力ばかり叫ばれる世の中だからでこそ、こういう意見も重宝されると私は思う。もっと言うならば演劇部や合唱部みたいに発声練習をしたり、日ごろからJ-POP以外にもクラシックを聴いたりしてそういう素養を身につけるのも、1つの方法と言えるだろう。

第2章では「「交渉力」と「声」」。これも第1章で述べたような論理力などの小手先なものよりも、声で引っ張って行けということを言っている。まず著者は「ビジネス・コミュニケーションとは、100%交渉である」と主張している。確かに会議や顧客のとの折衝では交渉のイメージは強い。当然上司との会話も交渉に入る。

100%と言い切るのはちょっと難しいが確かにその通りかもしれない。ではその交渉力を磨いていくにはどうすればいいかというと「声」であるという。「声」にも感情的、論理的、そして攻撃的の3つの要素があるという。それの場合の使い分けによって交渉力を磨いていくということである。ちなみに本書では「じゃんけん」になぞらえているところが実にユニークである。交渉は「じゃんけん」のように3つに使い分けて話せと。

第3章はそんな声をどのようにして鍛えたらいいのかという所であるが、発声練習の教科書という感覚で読めばいいかもしれない。実際この章は論じるよりもやってみることがすべてである。

第4章はケーススタディである。相手に意見を言うとき、行動させるとき、自分を売るとき、理解してもらう時の4つのケースに分けて紹介している。これはあくまで例示と言ったほうがいいだろう。でもそういうことを実践してこそ価値があるので本書を参考にして積極的に取り組むことこそである。

第5章は今度は逆に相手の声を見抜くことである。いくつかのタイプがあるがどのような特徴かを紹介している。

そして第6章ではこの声を使って仕事を成功する8つの極意である。8つの極意は「自分のブランドと声を一致させる」「声で役割分担させる」「意外な声を出す」「ハッタリを言う」「あえて弱気を見せる」「わざとモゴモゴする」「沈黙を使う」そして「とにかくいい声を出す」である。

仕事法の本については私自身それほど読まず、あまりブログにもUPすることはなかったが、本書ほど面白い1冊はなかったと言ってもいい。通常コミュニケーション本であったり、交渉術の本はよく論理的に考えろという文言が多かったり、相手の立場で話せ、聞けということも多かった。本書はそういったことをひとまずは排除し、声のトーンで勝負しろという考え方は共感を呼んだ。人をひきつけるのは第1印象はやはり見た目であるが、第2印象は声のトーンなどの話し方によって人の見る目が変わってきたりもする。そう考えるとこういった本がそれほど多くなくともあればいいと私は思う。