どうした、日本―中川昭一と宋文洲の不愉快な対話

何か不思議な表題の1冊である。
本書は現財務大臣である中川昭一氏とソフトブレーン株式会社創業者の宋文洲氏の対談本である。簡単にいえば日本人の政治家と中国人の実業家の対談である。いかにも違和感のあり、表題にも書かれているとおり「不愉快」な会話であったように思える。しかし章が進んでいくうちにこういった考えが帯びてきた。

「決してわかりあえない関係ではあるが、「民同士」の会話だとお互いに共通する話題、そしてそれぞれの事情に駆られた問題が浮き彫りになっている」ということを。

まずは第1章、「格差」について。
日本もデフレスパイラルから脱したころから「格差問題」があらわれ、景気が大きく減衰している今でも「格差」については後を絶たない。とりわけ顕著なのが「後期高齢者医療制度」にまつわる「老人の切り捨て」という声である。しかし中国も同じように「格差問題」で悩んでおり、海岸部の富裕層と内地にいる農民の貧困層の差が日本より顕著である。格差対策は両国ともにおこなわれているものの一項にやむ気配はない。ただこれだけは言える。「格差はなくならない」ということ。

結構とんで第5章「教育」。
中国はPISAでも上位に入り、さらには数学オリンピックでもトップクラスにいるほど優秀な国と言える。しかし上位に入った要因は優秀な生徒や学生をどんどん力を入れてきたが、農村に住んでいる子供たちなどはそれほど教育が行き届いていないところほど非常に学力が乏しいというところがある。当然中国共産党もこれには頭を痛めているようだが優秀な大学生が1年間教育を行っているという所は、格差にあえいでいる中の一つの華のように思える。日本は恵まれており、世界的にもそれほど格差は見られないが、教育レベルは世界的にみても落ちている一方のように思える。しかし、世界的に見たらそうではない。確かに授業時間の削減により学力が低下したのは要因なのかもしれないが、周りの国から見たらまだ教育に恵まれているという感じはある。しかし甘えてはいられないが、日本も高水準の教育ができたわけだが、今度の課題はいかにして子供たちに勉強する楽しさを植えつければいいのかというのが本当の教育の課題ではなかろうか。昨今の「全国学力テスト」や「学力低下」というのが独り歩きしているように思えるのは私だけであろうか。

最後は「外交」
これは日本にとって最大の課題と言うしかない。むしろ日本の外務省をはじめ、政治からはそれを意識しているのだろうか。諸外国から見て日本の政治家や外交官は「弱腰」「腰抜け」と言われていることを。ただし政治家の中には外交に熱心でどのような国にも対等な目で見て、そしてどの国にも毅然とした態度で臨む熱心な政治家や外交官もいる。中川昭一氏もその一人である。では外交をどうすればいいのかというのも非常に面白い。とりわけ日中関係にまで踏み込んでいるところははらはらとする。というのは中川氏は尖閣諸島におけるガス田の開発に強硬な態度で臨んだことも記憶に新しい。そのためギスギスとした対談になるのだろうなと予想したのだが、ある程度ギスギスはしたものの、それでも中国を理解し、そのうえで対等に臨むという中川氏の信念を垣間見た所でもあった。やはり日本の政治家の鑑だと私は思う(ただしポカは起こしているのが玉に瑕である。例えばワンセグの件とか)。

不愉快な会話とはいえど双方に歩み寄りがありなかなかに実りのある対話であるように見えた。とりわけ両国の長所・欠点を露呈しながらさてどうしていくのかというところまで踏み込んでいたところが面白い。