汚名―B級戦犯刑死した父よ、兄よ

戦後63年を迎える今、歴史認識問題は絶えず論議の的になり、外交の大きな隔たりの要因の一つとして挙げられることが多々ある。本書は特に取り上げなければならず、かつ遺族の苦痛は戦時中以上のものであった、本多勝一ら朝日新聞をはじめ政府では社民党や共産党はそう言った胸中を知っているのだろうか。むしろ中国や韓国に謝れという以前にそう言った人たちの陳謝と保障を訴えることから歴史認識問題について論議するというのが筋ではなかろうか。
本書は「百人斬り競争」においてBC級戦犯で刑死し、その後報道被害に立ち向かい戦った遺族たちがつづった1冊である。

「百人斬り競争」にまつわる裁判は一昨年の12月22日に結審したが原告側の上告棄却(遺族側の完全敗訴)に終わった。ちなみにこの「百人斬り競争」の発端を発したのが当時朝日新聞の記者であった本多勝一の「中国の旅」が朝日新聞に連載したことから始まった。そしてそれが1冊の本となるや、野田氏、向井氏の家族は崩壊し、世間では常に白い目で見られるという苦痛に苛まれてきた。それでも気丈にそれらとたたかい、本多勝一をはじめ朝日新聞、毎日新聞を相手取り訴えを起こした。結果は一真・控訴審・上告審ともに敗訴となったがこれについての詳細は後ほど書くことにする。
本書の構成は以下の通りである。

はじめに
第1章「「百人斬り訴訟」で父たちの無念を思う」
第2章「野田毅の三度目の死」
第3章「父・向井敏明の魂は大八洲に帰った」
付録「向井・野田両少尉の遺書」
「稲田朋美弁護士の一審最終意見陳述」
「恵美子クーパーの陳述書」
「野田マサの陳述書」
「向井千恵子の一審最終意見陳述」
謝辞

すでに事実となっているがそれでも誤解する人が多いためあえて言う。この「百人斬り競争」の記事は、兵士の高揚のためにつくられた創作記事だということは当時それを取り上げた記者も認めている。ちなみにこれを発行したのは毎日新聞社であり、そのことについて以前まで認めていた。ところが「中国の旅」以降、朝日新聞・毎日新聞はそれに関しての説明が行われていないのがおかしい。もっとも過去の記事についての説明責任は果たさなければいけないのにもかかわらずである(説明はしているものの、「二人の少尉を貶めているものではない」というすでに事情を無視したような説明をしている)。さらに裁判でも被告である本多は一度も出廷しなかったという。しかも被告側の敗訴であり、判決の理由もその証拠の立証自体杜撰なものであった。

本書では若者たちにも言及しており、いま「百人斬り競争」について関心のある人はそれほど多くない。そして向井、野田両少尉のことについても日教組や朝日新聞が仕組んだ「悪」という印象しかないのが現実である。若者から逆に本を読むことによって著者らの事情を知ることから歴史認識問題が変わる。私は本書以外にも様々な本と出合い、自分なりについた歴史観がある。私たちから始めることは「本当の歴史」を祖父祖母の世代から聞いて、それにまつわる本を読み、日本人として誇りに持つことを身につけるべきである。航空幕僚長の論文も立場上ではあるまじきことなのかもしれない。ただ日中戦争について、そして自衛隊として守るべき日本のことを自分なりに文献を通して考察してきたわけであるから完全否定するつもりは毛頭ない(個々の点で批判しなければいけないことはいくつかあるが)。そしてこの論文をみて賞賛すべきか、否定すべきかというのはあなた次第である。本を読んで自らの歴史観を見出すこと、それが歴史認識問題を乗り越える一つの手段ではなかろうか。