交渉力

スポーツの世界のみならず社会に関わる様々なことについて「交渉」というのは避けて通れない。本書は野球のFA交渉などで引退した野茂英雄をはじめ数多くの選手の代理人をつとめてきた団野村氏が自らの体験をもとに交渉力を伝授する一冊である。

第一章「交渉とは何か」
著者自身交渉は下手であると書かれている。このことについて書かれているからでこそ自分の交渉力がわかっている何よりの証拠である。そういう人ほど周りから見れば交渉力は強い。著者も例外ではないだろう。話は変わるが日本人は交渉力はあるのかと考えると、残念ながらない。あったとしても外国人との交渉ではたいがい負けるだろう。日本人は馴れ合いや過剰な集団意識がある。さいきんでは「KY」と言うようなものまで出てきており、交渉をする前に空気を読めというよな、いかにも「空気独裁」というのができている。交渉と言うのは「駆け引き」であるが日本人はそういったことを好まない風潮がある。一方外国人の多くは「駆け引き」が大好きだという。その差が今の日本の政治的・経済的交渉の手際の悪さが分かる。

第二章「交渉と闘い」
交渉をやるにあたり相手のルールややり方というのを熟知する必要がある。この章ではそう言っているのだろう。ここではMLB人気の草分的存在となった野茂英雄とのエピソードが書かれている。

第三章「交渉と提案」
ここでは伊良部のほか2つのエピソードについて書かれている。著者が体験した交渉の中でも泥沼化した事例を取り上げている。交渉力の応用編と言うにふさわしく、一部始終しか書かれていなくても熾烈さがひしひしと伝わる。

第四章「エージェント・団野村誕生」
ここでは交渉から一歩引いてアメリカ人と日本人の違いについて著者なりの観点から説明している。著者は日本人とアメリカ人の間に生まれたいわゆる「ハーフ」である。さらにアメリカと日本の両方の生活を経験してきた。その中でアメリカでは「自由と自己責任」を、日本では「タテ社会」をそれぞれ学んだ。野球生活から今度はチームオーナーや代理人になり、エージェントという道に進んだという。

第五章「交渉のテクニック」
交渉をやるにあたっての8つのテクニックについて書かれている。8つのテクニックとは、

①「市場を知る」
②「複数のプランを用意し、ほのめかす」
③「相手の話をよく聞き、猶予を与える」
④「約束したことは必ず書面にする」
⑤「口約束は信用するな」
⑥「怒るときは冷静に」
⑦「ネットワークと新しい情報を得るにはみずから動く」
⑧「絶対にあきらめない」

のことを表している。このうちいくつかは第4章までのエピソードの中からちりばめられているのですんなりと頭に入っていけるだろう。

第六章「プロ野球界に物申す」
現在の日本のプロ野球界を辛辣に批判している。特に日本からメジャーにわたった人たちが、日本球界に復帰できる環境がまだ整っていないのが現状として挙げられる。復帰できた一例として一昨年に引退した北海道日本ハムファイターズのSHINJO(新庄剛志)が挙げられる。また野茂がメジャーにいったことにより日本がメジャーリーグを目指すようになった。そのことについてNLBはようやく容認する姿勢になっては来ているものの未だにMLBへの嫌悪感が残っているのだろうか、田沢問題で日本球界から閉め出しを行うわ、数年前まではプロ野球協約を秘密裏に変えて日本球界からMLBに移籍できなくさせるという工作を行ってきた。しかしNLBにしろ、選手会にしろ肝心なことを忘れている。MLBの移籍を許すだけではなく、もしその世界で夢破れてもいつでも日本球界に帰って来ることができるような環境を整えることこそ日本球界のためになるのではないだろうか。