最高指導者の条件


最高指導者の条件 最高指導者の条件
李 登輝

PHP研究所  2008-02-19
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李登輝が総統の座を退いてから8年が経過した。それでも総統の座に復帰してほしいという人も中にはおり、さらに相当以上に精神的指導者としての存在は非常に大きい。そのことから中国では警戒人物として挙げられているほどである。
台湾のことなので、日本人にとっては人事ではないのかというかもしれないが、もともと李登輝は戦前日本に留学しており、創始改名もした。日本軍にも属していたほどである。
本書は最高指導者としての条件について書かれているが、ある点で見たら啓蒙書であり、ある点で見たら李登輝自身の自伝でもある。大変面白い一冊である。私の見た限りではこの作品こそが今年最高のリーダーシップ論、もしくはビジネス書になるのではないかと思った一冊であった。
Ⅰ.「指導者が持つべき哲学」
指導者が学ぶべき哲学は何なのか、持つべき哲学とは何なのかについて書かれている。李登輝はクリスチャンであるが、クリスチャンになった理由というのもいかにも李登輝らしいといいざるを得ない。
「神は存在するのか否か」
といった論考を考えるためである。ちなみに李登輝自身は自分のことを「理屈っぽい」と語っているが、そういうところは共感できる。またそれとともに青年時代は自らの「死」について考えた時期でもあった。すなわち「自我の死」についてである。それを見出すために毎日朝早くに便所掃除を行う、座禅を組んだり、寒い中冷たい池に入って瞑想したり、剣道で自分の限界までめちゃくちゃ練習したりしたほどである。さらに日本軍に召集されたとき希望の軍隊はと訊かれ「歩兵にしてください」といって上官に笑われたというエピソードもある。徹底した観念論者である。徹底した観念論者であり、数多くの日本文学、哲学に出会ったからでこそ考えることのできる論考なのかもしれない。そして最後になるが李登輝自身は総統の椅子には興味を持たなかった、もとより政治家になることにも興味を持たなかった。李登輝自身は学者として道を究めたかったというが、農業経済学の論文を多数出しているところを後に総統となった蒋介石の長男である蒋経国が目をつけ大臣のポストを与えた。その語蒋経国が総統二期目のときに副総統のポストを与え、死後李登輝は総統となった。そこから数々の大改革が行われたがこれは後々語ることとしよう。
Ⅱ.「上に立つものの行動原理」
強いリーダーシップで名を上げた一人に「後藤新平」がいる。後藤新平は第四代台湾総督の抜擢により、台湾総督府民政長官となった。当時の台湾は「四害」のひとつとも言われ、略奪や伝染病、そしてアヘン(常習者)の宝庫とまで言われたほどである。台湾を改革するために犯罪者といったものを武力によって取り締まるということを今まで行ってきたがいずれも失敗に終わった。後藤が民政長官となってから、アヘンを免許販売にさせるといったことを行い、50年かけて常習者を根絶させるという手段に出た。ちなみにそれによる収入は医療に当て込まれ、伝染病の宝庫とまで言われたのが世界一医療が進んでいるところにまで変貌を遂げた。それ以外にも数々のことに貢献したとされているが、ここでは後藤新平ばかり取り上げるわけにいかないのでここまでにする。後藤の改革でもって台湾の発展が一気に加速し、中国が見捨てた大陸は今となっては中国でもうらやむほどの民主国に成長した。政治家としてこういった改革の決断力は必要であるが李登輝は今の官僚に乗っかっているような日本の政治システムにも手厳しく批判している。また他国にも恨まれることのないように、ある意味で変な世渡り工作を行っている。しかし本来の官僚や政治家というのは「憎まれやすいところでも引き受ける」という侠気があるはずなのだが、どうも今の政治にかかわっている人たちはそういうのがない人が多いように思える(一部の政治家はそういう要素を持った人もいるのは確かだが)。
Ⅲ.「上に立つものの行動原理」
上に立つものは必ずといってもいいほど「道徳」というのは必要である。上であればあるほどなおさらのことであるが、どうも私が生活をしていく日常を見ている限り「果たしてそれがあるのか」と疑いたくなる。評論家の日下公人氏の定義について非常に感銘を受けたのでここでも取り上げておく。
「道徳というのは土であり、日本の経済発展はこの道徳という土の上で始めて成立することができる(p.145より)」
まったくそのとおりである。しかし「戦後最長の好景気」のときにはこの定義は当てはまったのかというとまずそう思えない。非正規雇用により貧困にあえぐ人たちの急増により格差は一気に広がった。さらに昨今の急激な景気低迷により「派遣切り」や「リストラ」「内定取り消し」といったことが起こっている。こう考えると今のような経済発展には道徳どころか節操がないように感じる。だが戦後日本の高度経済成長には日下氏の語っているところはそのとおりといえるだろう。
李登輝自身は哲学や農業経済学の研究を試行錯誤しながら実践しようと常に行動した人である。そのことから総統になったときにそれが花開き台湾の民主化の大きな礎となった。さらに「台湾大震災」のときにもその行動力をもってして迅速な復興や避難地の確保を行ったことでも知られている。そして常に台湾の未来、元祖国である日本の未来を考え講演も精力的に行っている。
私の尊敬する李登輝の考えと実行力を味わえる至高の1冊である。
余談であるが神田昌典氏は一昨年に李登輝氏と対談したというが、このことについていろいろと詳しく聞きたいものだ。

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