江戸っ子の教訓

噺の中には人生訓を学ぶことができる。本書は噺家の桂小金治師匠(もともと真打にはなっていないが、「師匠」と呼んでも差し障りない)が自らの半生を交えて江戸っ子、もとい元々日本人にあった粋や礼儀、人情といったものを綴った渾身の一冊である。

第一章「江戸っ子の人情」
著者が二代目桂小文治に入門してから前座時代で体験した人情、「怒りの小金治」として名をはせた「アフタヌーンショー」時代でのエピソードまでの人情についてである。印象に残ったのが「アフタヌーンショー」の話。交通事故での怒りから番組を持つまでになったが、「交通遺児育英会」の生みの親に発展するまでになった。著者の行動がここまで影響すると考えると、人々はあることに関して「許せない」というような怒りといった感情を持つが、そこから行動に移せるのかというとわずかしかいない。だが、自分が行動を起こさない限り何も変わらない。正義感や人情は行動を起こさなければ何者にもならない。

第二章「江戸っ子の粋」
前座時代の努力、「泣きの小金治」と言われるようになった「それは秘密です」のエピソードなどがこの章では書かれている。今日話題である教育問題は子供に対する躾の在り方が印象的であった。当ブログでも教育問題は何度か言及しているが、生徒(児童)に勉強に加えて躾も学ぶ場である。これは親とともに子供に教えるのが筋であるが、最近モンスターペアレントのように全て学校がやってくれるというような無責任な親が増えている。これは3章と6章でも主張する。

第三章「江戸っ子の互助精神」
江戸時代の教育を紹介している文献について以前書いたが地域・家族ぐるみでの互助精神について書かれている。とりわけ「おかげ」は「ひとりしずか」や「にんげんだもの」で有名な詩人、相田みつをが「おかげさん」と残すほど大事な言葉である。

第四章「江戸っ子の品格」
佐田啓二、川島雄三、笠智衆、石原裕次郎、柴俊夫、藤井フミヤ、安藤百福、杉原輝夫…、多くの人々との出会いによって「小金治」と言う名を磨いていった。

第五章「親から子どもへ」
子育ての在り方について書かれている。最近では子育てを学校にすべて頼るような親、他の家の子供を叱れない親が多い(後者はいざこざを避けたいということもあるようだが)。

第六章「家族のこと」
「子供は親の背中を見て育つ」と言うがまさにその通りと言ってもいい。第五章でも書かれているような体当たりでの子育て、挨拶、先人の声、そして著者の夫婦の憩いなどである。第五章・第六章は子育ての在り方が主であるが、この章の最後は惚気話や健康の話もあるので読んでて、嫌気さすこともなく、むしろ面白さがあった。

本書を読んでいくうちに、自分自身本書を評する資格があるのかという疑念が生じるようになった。それだけ自分の胸に突き刺さる言葉が本書には多かった。同時に自分自身、今までの行いを反省し、これから本書を教訓に生きようという気概があふれる。
本書はそんな気持ちになれる一冊である。

「一念発起は誰でもする。努力までならみんなする。そこから一歩抜き出るためには、努力の上に辛抱という棒を立てろ。この棒に花が咲く」(本書そでより)

善い言葉である。