日本経済を襲う二つの波―サブプライム危機とグローバリゼーションの行方

上武大学大学院教授の池田信夫氏は著者を「地底人」と揶揄した。
なぜ池田教授は彼を地底人だと読んだのか。著者は「定額給付金」と言った「バラマキ政策」と呼ばれるものを称賛したからだ。ではこの理由も兼ねて本書で検証する。本書はサブプライム危機とグローバリゼーションが波として日本経済に襲い掛かる。バランスシート不況の分析でもってこの不況の乗り切り方を提示している。

第一章「サブプライム問題は戦後最悪の金融危機」
世界恐慌の端を発したのはアメリカのサブプライムローンの焦げ付き問題、通称「サブプライム問題」である。第一章ではグリーンスパンが生んだサブプライムローンについての考察からである。前の所でも「グリーンスパン」が出てきたが今回は一寸この人について解説する。アラン・グリーンスパンは1987年、レーガン大統領の指名によりFRB議長となった。ちょっと脱線するがFRBとは一体何かと言うと「連邦準備制度理事会(Federal Reserve Board)」と言われており、簡単にいえば日本での「日本銀行」と同じ役割を果たしている。グリーンスパンは87年から2006年1月まで約20年もの間FRB議長の椅子に座り、「ブラックマンデー」を独自の金融政策で切り抜けたことで脚光を浴びた人である。と同時にアメリカのサブプライムローン焦げ付きとなろう「住宅バブル」の仕掛け人であったのもグリーンスパンである。このサブプライム問題を機に「グリーンスパン批判」が起こっているが、これからまた様々な角度から批判されるだろう。20年も在籍したことなので歴代大統領を並べてみると、レーガン、ジョージ・ブッシュ(ブッシュ前大統領の父)、クリントン、(ウォーカー・)ブッシュの政権の中で経済政策を担った。レーガノミクスのような自由主義経済から、クリントン政権が推し進めた緊縮政策を行った。イデオロギーによる軋轢もあったのだが約20年にわたってアメリカの財政を支えてきたことはある。
さてこのグリーンスパンの時に行った「住宅バブル」によって起こった「サブプライム問題」であるが、後半ではサブプライム問題について専門的に書かれており私にはちょっと難しい内容であったが、公的資金の導入を例においてアメリカもそう言ったことを行うべきと主張している。しかし池田信夫氏にそのことについて批判されており前述のような「地底人」呼ばわりされているのは言うまでもない。

第二章「住宅バブル崩壊のアメリカはバランスシート不況」
「サブプライム問題」によりアメリカの住宅の先物市場は大きく下落したが、本書の図を見ると92年からずっと上がり続けていたという事実がおかしいとはいえ、日本も似ている道を辿っているため人のこと言えない部分もあるのだが。住宅市場によるバブルが崩壊した時にアメリカ・ドルへの信頼も大きく失墜し全面的なドル安となった。そのドル安にかけているのが現FRB貴重である(ベン・)バーナンキである。バーナンキは前のグリーンスパンとは違い、リフレ政策はとしても知られている。ではこのリフレ(政策)についてもちょっと解説してみる。リフレ(リフレーション)とは、需要を創出することで景気回復を図る政策である。池田信夫氏や「埋蔵金」で一躍有名になった東洋大学教授の高橋洋一氏が推し進める「周波数オークション」もそれに入る。しかし著者はこういった政策理論についても批判的である。「地底人」と言われる所以がここにもあった。

第三章「ドル危機に世界はどう対処すべきか」
「ドル危機」はある意味深刻な問題である。と言うのはこれまで世界経済の基軸通貨はアメリカ・ドルだからである。その信用が失墜した時にはその基軸が崩壊し新たな基軸を作らなければならなくなる。例えばロシアの横暴により基軸通貨が「ルーブル」になることでさえある。もっと言うとあるものには「円」を、あるものには「ユーロ」を…と言う風に基軸通貨が品物によってばらばらになることさえある。これを是とするのか非とするのかで大きく違うが、世界的に動いている以上「腐ってもドル」のほうがいいと私は思う。

第四章「日本はバランスシート不況を脱却できたか」
日本は過去に「バランスシート不況」と言うのがあったのだが、これは過剰な公共資金投入のために行われた弊害としてこう言うような不況に陥った。今となってはそれは改善されようとしているが、世界恐慌によりどうやら雲行きが怪しくなってきたようである。

第五章「日本に襲い掛かるグローバリゼーションの大波」
「グローバリゼーションの大波」とくると世界的なものと言われるようだが、その中心にいるのは中国であったり、EUであったりする。本書に書かれているとおり「グローバリゼーション」は日本にとってみれば「中国」と言っても差支えないだろう。

現在は世界恐慌の真っ只中におり、「定額給付金」の問題などの経済的政策の課題も山積している日本の国会、及び日銀は早急に対策を講じるべきであろう。野党や国民の批判は後でゆっくり聞くことにしてできる政策から片っ端からやっていかないとまた「失われた十年」のようになってしまう。