黄砂―その謎を追う

季節もだんだん春に近付いてきたが、春になってくると、逆に冬に逆戻りするようになる。水前寺清子の受け売りではないが「三歩進んで二歩下がる」というような状態を繰り返しているように思えてならない。

さらにちょうどこの時期は日本でも黄砂に見舞われる時期である。黄砂は中国大陸からやってきており、いわゆる「偏西風」にのって日本に来る。とりわけ黄砂にあうのは九州をはじめとした西部にかけてである。ではこの黄砂とは一体何なのか、黄砂はどのようにしてできるのかということについて知る必要がある。

1.「黄砂とはなんだろう――所変われば黄砂も変わる」
黄砂は日本では春の風物詩とされているが、中国や韓国では外出が自粛・もしくは禁止されたり、スポーツ大会が延期になったり、学校が閉鎖されたりすることがあるという。黄砂による呼吸器疾患が起こる可能性があるという。黄砂によって良影響と悪影響の両面についてもある。良影響というと顕著なのが酸性雨の緩和である。とりわけ中国では郊外により酸性雨が深刻になるのだが、黄砂によって中和され雨の酸性度を測るPHでは日本よりも高い。悪影響というと人的には前述の呼吸器疾患が挙げられる。ほかにもひどさによるが作物への影響、さらには住宅などの建造物の崩壊もあるという。悪い面のほうが多いようだ。

2.「大空を浮遊する黄砂」
気象衛星の「ひまわり」と人工衛星の「ライダー」によって黄砂が観測できるという。特に春の時期には黄砂が流れるさまがまるで雲の動きのようにはっきりと表れる。「ライダー」は本書で詳しく述べているのでここでは簡単に述べるがレーザー光によって大気中にあるチリやゴミを判別する人工衛星である。黄砂の全貌を明らかにすべく、本書のためにというわけではないのだが空から黄砂を捕獲することに成功した。その結果の詳細は後半述べることになっているのだが黄砂は「空飛ぶ化学工場」であるという。どうやら酸性雨の中和と大きく関係しているようだ。

3.「上空を浮遊している黄砂をつかまえる」
ではこの黄砂をつかまえるにはどうやってつかまえたのかというのをここで紹介している。航空機ではつかまえにくく、どのような方法でやったのかというのも自分でも不思議ではならなかったのだがどうやら偏西風とガスを利用して飛行する乗り物である。正解は本書にて。さらにここでは酸性雨が中和されるメカニズムも説明されている。

4.「黄砂の通り道」
黄砂の通り道というとどのようなものか。これは春の天候にそっくりと言ってもいいかもしれない。週替わりに天気が変わる。これは偏西風により雲が夏や冬よりスピードが速く動くのみならず、「西から天気が変わる」のが大きな特徴である。黄砂の影響が受けやすいのは九州などの西部ということを考えると春の天候とそっくりだということが言える。

5.「黄砂の源流をさぐる――敦煌での気象観測」
黄砂について、

「日本の上空で黄砂が見られるのに、中国大陸に低気圧の活動が見付からないことがあるのはどうしてか」

「なぜ、弱い黄砂が見つかるのはある限られた高度なのか」

「タクマラカン砂漠の砂塵嵐が長持ちするように見えるのはどうしてなのか」(いずれもp.188より)

「黄砂がどこから来るのか」
というのを中国にある敦煌(とんこう)市という所で第3章で述べた手法によって黄砂を採取した。敦煌市はシルクロードの分岐点として古くから交通の要所として有名であり、2つの砂漠にまたがったオアシスとしても知られている。黄砂を採取するにはもってこいの所である。

6.「海に落ちた黄砂の謎」
黄砂が降るのは別に陸上ばかりではない中国から日本に渡るわけであるから日本海は例外ではない。少し意外なのが太平洋のど真ん中にも降るということである。しかしこの黄砂は海のプランクトンが利用しているという耳を疑うところがあった。

7.「地球環境の時代の黄砂」
この黄砂は環境問題と深くかかわっている。もっとも関わっているのは「砂漠化」である。
今環境問題は「地球温暖化」ばかりが目につく、しかしそれだけが環境問題かというとそうではない。前述のように「砂漠化」「黄砂」、それに関連して干ばつかにより食糧に大きくかかわる。海面の上昇と地盤沈下による水没化もある(大概は地盤沈下が大きな要因である)。

環境問題は解決すべき問題は山積しているが、しかしベクトルはあっち向いたりこっち向いたりしているため明確な方向が定まっていないところが本当に問題にすべきところといいたいところだが、これも政治的な背景がありより複雑化させており、解決するためには綿密かつ繊細にせざるを得ないほどシビアなものとなってしまった。