ジャパンクールと情報革命

ジャパンクールというと以前にも何度か取り上げたことがある。その時に私は日本のアニメや漫画は人気を集めているが日本では収益も出る、及び戦略が確立されていないためハリウッドなどの海外メディアに収益を奪われている。兆しはあるもののまだまだ油断できないと言ったところである。しかし世界恐慌の煽りにより派遣切りや内定取り消しなどが相次ぐ中、アニメ制作業界でも急伸の大手といわれる「GONZO」でも人員の4分の1を削減を行った。アニメ業界でも例外なく世界恐慌による地殻変動の波が起こり始めたと言ってもいいだろう。

さて本書ではジャパンクールによる「モノづくり」から「モノ語りづくり」への変容を予見したものである。

第1章「日本は「モノづくり」大国か」
日本は「モノづくり」大国と言える。それは高度経済成長期以降の家電の急速な普及や、それまでの「戦後最長の好景気」時の自動車の需要拡大により「モノづくり」という分野で経済的にリードしていた。ただ不況になるとこう言ったモノづくりが売れなくなってしまうため他分野でシフトしなければいけない。例えば情報といったものがある。今は世界恐慌によりモノが売れないとしたら情報の売り方がカギとなる。

第2章「「涼宮ハルヒ」の教えたこと」
「涼宮ハルヒの憂鬱」というのが3年前にアニメで放映されDVDとなったが今もその熱はやむ気配がない。最近では動画で「涼宮ハルヒちゃんの憂鬱」と「にょろーんちゅるやさん」というようなものまで出ている(私は見たことがないが、角川アニメチャンネルにて配信されている)。この「涼宮ハルヒ」シリーズは角川書店だが、インターネットを用いて知的表現を用いて世界的に認知させるという戦略をもっていた。しかしその弊害が動画共有サイトへのアニメ番組配信という著作権違反が横行されている現象が起こっている。ただこれに関しての罰則規定がほとんどないというのも抜け穴の一つとされており、動画配信にまつわる著作権のガイドラインの構築が急務と言える。

第3章「工業社会のあとに「情報社会」が来るという嘘――江戸時代は「情報社会」だった」
副題を見るに目を疑う。ただわからないでもない。
高校ではだれでも「世界史」という科目を受けたことがあるだろう(履修不足で受けなかった人も一部にはいたようだが)。この「世界史」という名前は実は大きな嘘でこの「世界史」で学ぶ大部分は「西欧」のことについてであるので簡単にいえば「西欧史」と言ったほうが正しいという。私もその通りと言いたい。「世界史」として各国の歴史を学ぶとなると、西欧のみならずイスラム圏、アフリカ、中国大陸の王朝、朝鮮大陸の王朝など枚挙にいとまがない。それを全部学んで初めて「世界史」として成り立つのだから「西欧=世界」というまぼろしを文科省が意図的に繰り出しているようにしか思えない。
さて本書の副題にある江戸時代は「情報社会」であったということについてだが、古典落語や歌舞伎にある。第2章で詳しく述べたのだが著作権問題の在り方について書かれたが、それに落語や歌舞伎はつくった人が分かっておらず、誰でも演じることができたということを考えると、この著作権問題に一石投じる材料になるかもしれない、が古典落語の中には「怪談牡丹灯篭」や「真景累ヶ淵(しんけいかさねがぶち)」のように誰がつくったのかはっきりしているものもある。それについても考えていく必要もある。

第4章「「モノづくり社会」から「モノ語りづくり社会」へ」
「モノ語りづくり」は簡単に言うと日本のアニメなどのコンテンツである。世界中で「ジャパンクール」と呼ばれているほど世界的に日本のアニメが大人気である。それによって日本の文化を触れようとする動きもあるが、それが顕著なのが台湾である。台湾では「哈日族(ハーリーズー)」と呼ばれる知日、もしくは日本の文化が大好きな人がいる。その語源となったのが漫画家の哈日杏子(ハーリーキョウコ)であるが、その影響が非常に強い。

第5章「東アジアの「モノ語りづくり」産業――台湾・韓国・中国へと伝播するジャパンクール」
台湾では日本の秋葉原のようにアニメショップができている。そこでもアニメグッズが人気を呼んでいるようだが、台湾のほかにも韓国や中国でも日本の文化について人気を呼んでいる。特に中国でもアニメ、いわゆる「日本動漫」というのが人気を呼び、歴史認識で「反日」でありながら、前述による「知日」という二面性を持った若者が多い。しかし中国当局はそれを許すはずもなく、ゴールデンタイムでの外国アニメの放映を禁止するということを行った。

第6章「農耕社会・日本が情報社会に生きる道――アニメ・アニマル・アミニズム」
「モノ語りづくり」は今に始まったことではなく古くから存在する。例えば日本最古の恋愛小説である「源氏物語」をはじめ数多くの物語があり、さらに安藤広重(歌川広重)や葛飾北斎の画に関してもこの日本における産物と言える。アニメの中には動物や植物という生物との会話という日本民族を如実に描かれている作品まで言及している。

第7章「情報社会のユーザーの姿を探る法――今振り返る江戸時代型「モノ語りづくり」」
情報社会と言われているがそれをどのようにして創作者に収益を上げる(本書では「お布施がまわる」)仕組みを作るべきなのかというのが課題である。本書を読んで最初の結論の補足となったに過ぎないが、しかし「ジャパンクール」の最大の課題は著作権問題にしろ、コンテンツの問題にしろ、最終的にはそこに行き着くのではないかと私は思う。