平成落語論─12人の笑える男

今月8日に林家いっ平が「二代目林家三平」を襲名した。1980年に初代三平が急逝して、約28年もの間空位となったこの「三平」の名前が復活する。ちなみに初代三平はご存じのとおり「どうもすいません」「体だけは大事にしてくださいよ」という名セリフがあるが、二代目はそれよりも古典落語に比重を置いているという。私自身落語は聞くが二代目三平の落語はまだ一度も聞いたことがないのでどういった落語かというのは説明できない。しかし兄の九代目林家正蔵は数多くの大ネタを挑戦している。二代目は明るい芸風を持っていることから、どんな落語を披露してくれるのか楽しみである。

平成に入って20年、現在落語界では襲名事が相次いでいる。この二代目三平や九代目正蔵もあるが、2006年には二代目林家木久蔵林家木久扇の「親子ダブル襲名」が話題となった。さらに人間国宝の五代目柳家小さんの息子で弟子の三語楼が六代目柳家小さんを襲名した。そしてこれからやってくるのが、「笑点」の番組で腹黒キャラで有名な三遊亭楽太郎が来年の春に「六代目三遊亭圓楽」を襲名することになっている。これからもどんどん名跡が襲名するあたり、落語界は大きな変動と共に面白さを見せていると私は思う。

さて本書は「平成落語論」というタイトルだが、平成に活躍する若手・中堅の噺家を取り上げており、著者独自の観点で批評している一冊である。

本書で挙げている噺家は、「立川談春」「柳亭市馬」「柳家花緑」「三遊亭白鳥」「立川志の輔」「柳家喬太郎」「春風亭昇太」「林家たい平」「林家正蔵」「笑福亭鶴瓶」「春風亭小朝」、そして「二代目三平」、「三遊亭王楽」「二代目木久蔵」「四代目三遊亭小圓朝」「三遊亭兼好」の「二(三)世の噺家」を含めて全部で16人を挙げている。

筆頭に立川談春を挙げているのが印象的である、というよりも当然というほかないだろう。芸では同業者、もしくは落語評論家の間では絶賛のあめあられというべきである。さらに著書「赤めだか」も「講談社エッセイ賞」をとるなど文才にも長けている。もし今、立川談志が亡くなったのであれば、次に談志を継ぐのは彼であろう。

もう一つ印象に残ったのは昨年、一昨年とワイドショー取り上げられていた春風亭小朝。「金髪豚野郎」と罵られたことで有名であるが、小朝の芸は結構見ているが心地よいスピード感と聞きづらさを感じさせない話し方と清涼感で、古典というのを感じさせない凄さをもっていたように感じた。数々の襲名事に関してプロデュースを行うことでも有名であるが、小朝自身にも襲名が噂されていた。落語界の間では有名な話であった。昨年の5月に元妻の泰葉が暴露したのだが三代目三遊亭圓朝の襲名である。「三遊亭圓朝」は「牡丹灯篭」や「真景累ヶ淵」などの演目を誕生させた、「近代落語の祖」の名前を襲名するのだから落語界にとっては衝撃的なことである。小朝自身はあいまいな態度を取り続けていたため結局立ち消えとなってしまった。著者はこの名前よりも「春風亭柳枝」を襲名したほうがいいと提案している。私は思わずうなった。確か「春風亭柳枝」という名は八代目がなくなって約50年もの間、誰も名のっていない。しかも落語協会が持っていること、もうすでに名人の粋を達していることを考え、それなりの名跡が必要ということを考えると私は著者の提案に賛成である(本人次第だが)。

本書を読んだ率直な感想としては、注目している噺家を批評するもので、どちらかというとミクロの観点で批評している一冊であって、今の落語界全体についての批評がされていなかったことが残念である。しかし取り上げられている噺家はどれも粒ぞろいなので挙げられた噺家狙いで寄席に行くというのもありだろう。