アジア三国志

元「エコノミスト」編集長で知日派ジャーナリストのビル・エモット氏の1冊である。本書は日本・中国・インドの三国のこと、それぞれの国の戦略・思惑について書かれている。日中関係は政治的にはそこそこといった状態であるが小泉政権時は冷え切っていた。では日印関係はというとマハモティ・シン首相が日本において演説したときにパール判事を引き合いに出した。確かにその所以は無きにしも非ずであり、歴史を振り返ってみると日本はインド独立のために尽力したといってもいい。「中村屋のボース」ことラース・ビハリ・ボースを英国の手から匿い、スバス・チャンドラー・ボースらもインド独立のために日本に協力を要請したことでも知られている。

第1章「アジアの新パワー・ゲーム」
おそらくこれからの世界情勢にまつわる問題の中心はアジアになるだろう。アジアといっても東アジアもあればアラブやイスラエルのような中近東もアジアである。大国アメリカもアジア政策なくして外交政策はありえなくなるほどの位置づけになっている。今アジアはよくも悪くもホットである。

第2章「アジア創造」
「アジア創造」と書かれているがここではアジアの政治・経済についてである。ここでは大まかなことについてしか書かれていないので3章以降の足がかり的な役割をしている。

第3章「中国――世界の中心の国、問題の中心」
昨年北京オリンピックがあり、さらには悪い側面ではチベット問題も挙げられている。中国は良くも悪くも中心の国となりつつある。しかし悪い問題については中国共産党自体歯牙にもかけていないようである。
本書では経済的なことばかり書かれているが、今中国では密かにではあるが民主化運動も行われており、民主活動家の胡佳がノーベル平和賞候補に挙がり、サハロフ賞を受賞するなどしている。当局はそれについて弾圧をするという強硬な動きを見せているが、確実に民主化の声が高まり始めているといっていいだろう。

第4章「日本――パワフル、脆弱、老齢化」
本書で取り上げられている三国の中で最も経済成長が低い。しかしもう30年前から急速に成長し続け、GDPでも世界第2位の位置にいる日本だが最近では高齢化や、経済も低成長に陥っており今脆弱化というのがネックになっている。そうさせている大きな要因は政治家であり、官僚であり、メディアであり、国民である。私の意見であるが戦後GHQによる政策によるものであると考えられる。そういった脆弱化の要因として著者はこう挙げている。

「日本では、一度も革命が起きていない。」(p.147より)

革命を起こそうとしていないわけではない。革命を起こそうとしてもすべて未遂に終わってしまっている。なぜ革命が起こっていないのだろうかと考えると、日本人の特性という観点から見てみないとわからない。

第5章「インド――数が多く、ごたまぜで、勢いに乗っている」
数年後には人口世界一の国となるであろうインド。インドもまた経済的に急速な成長を遂げている国である。とりわけIT産業で強みを持っている。民主主義国の中では世界一の人口を誇る国ではあるが、階級意識の厳しいところでも知られており、特に「カースト」が未だに残っている。国際関係で言えば、日本ではある程度良好ではあるが、中国とは中印領土紛争もあるため必ずしも良好とはいえない状態である。

第6章「環境問題――中国、インドの成長の壁」
日本では京都議定書の関係で厳しい制限を強いられているようだが、もっと環境問題が深刻なのは中国とインドである。インドについてはまだ私にもわからないが、中国についてはもうTVのニュースでも明らかになっているとおり、特に内陸部では環境汚染により、以前のようにまともな生活ができないほど凄惨たる状況に陥っているという。急速な経済成長による負の遺産というべきであろうが、これに関しての政策は行っているのかどうかは不明である。

第7章「横たわる歴史問題」
三国の間には「第二次世界大戦」以外にも多くの歴史が存在するが、本書ではこの「第二次世界大戦」、とりわけ「日中戦争」について取り上げられている。未だに歴史認識問題が残っており、従軍慰安婦、南京大虐殺、七三一部隊に関することについてあげているが、著者はあくまで喧嘩両成敗のスタンスを取っている。何かというと中国は南京や七三一について誇張しすぎだとしており、日本も謝罪していないとして糾弾している。
私個人の意見であるが、上記のことが浮き彫りに出たのは80年代以降である。その前に戦争については1972年の日中平和友好条約のときに謝罪している。それから10年以上たってなおくすぶっているのかが不思議でならない。しかも謝罪して解決へ進んでいるのかというとむしろ逆方向に進んでいる。そのことも忘れてはならない。

第8章「発火点と危険地帯」
今度は軍事に関してである。いうまでもないが中国は年々急速な軍拡を行っており統計的な軍事費だけでも450億ドル(p.279の表より)となっているがもっと軍事費を費やしているのではないかという疑いもある。日本も中国に近い金額で軍事費を投入している。

第9章「アジアのドラマ」
これから中国もインドも急速に経済成長を続け、日本を追い越し、アメリカを脅かすほどの存在になるだろう。ではその中で日本は小さくなってもいいのかというとそうではない。日本は高齢化により労働人口が急速に減少し続ける。ちなみに中国も団塊の世代、中国では「産めよ殖やせよ」と呼ばれた世代が高齢化しており、日本に若干近くなってきている。高齢化しつつある中イニシアチブを取るのはどこの国なのかというのも世界中で注目を集めていることだろう。

書評をするにあたり、ある国について調べてみたらこんな記述があった。
「近代以前の日本では、中国を経由して仏教関連の情報とともにインドについての認識があったが、情報は非常に限られていた。そのころはインドのことを天竺と呼んでいた。また日本・震旦(中国)・天竺(インド)をあわせて三国と呼ぶこともあった。」(wikipediaより)

著者はこれを意図して「アジア三国志」という