現代若者犯罪史―バブル期後重要事件の歴史的解読

TVニュースや新聞では枚挙にいとまがないほど取り上げられている若者犯罪。実際に若者の犯罪数は「少年をいかに罰するか」という本では増えていないという。しかしなぜこれほどまでピックアップされるのかというと生活の多様化や家族間の距離が離れていったという。犯罪の要因については前述のように時代の変化というのもあるが、親との確執など何年も変わらないものまである。

本書はバブル期後、80年代後半から今日までの若者犯罪について考察している。

第一章「犯罪の解読と犯罪史の方法」
前述のように犯罪の動機の在り方は不変のものもあれば時代とともに変化する者もある。
本章では「宮崎勤事件」と「和歌山毒入りカレー事件」、そして1986年の「葬式ごっこ事件」を中心に犯罪解読の方法について説明している。
犯罪動機のメカニズムについては「犯罪心理学」という学問があるほど、動機の変遷について論議は活発化しているほどである。ちなみに本書の著者は心理学者ではなく「社会学」として、犯罪を引き起こした時の社会背景をもとに考察を行っている。

第二章「高度情報社会の若者犯罪――ゲーム型犯罪の構造」
本書で最も取り上げられていたのは「ゲーム型犯罪」と「ネット型犯罪」である。どちらも言われるのが「感化」と、「コミュニケーションの疎遠」であるが、はたしてそうなのだろうかという疑問も禁じ得ない。
この「ゲーム」がブームとなったのが90年代。ちょうど「失われた10年」で、バブルがはじけ長い不況時代に陥った時である。90年代で最も際立った事件というと「地下鉄サリン事件」が挙げられる。それ以外にも少年犯罪が「ゲームによるもの」という論調が強まった時期でもある。その先になるが森昭雄の「ゲーム脳の恐怖」や岡田尊司の「脳内汚染」という本によってそれを実証づけようとした例がある。しかし科学的な根拠が乏しく、こういった犯罪をゲームを理由づけられるほど短絡的ではないと私は考える。

第三章「電子ネット社会の若者犯罪」
第四章「ネット型犯罪の構造と背景」
第五章「ネット裏側に集積する内向性犯罪――いじめ自殺と親殺し」
これらの章では「インターネット」が絡んでいる。とりわけ匿名性の強い掲示板によって誹謗中傷されたのを逆恨みに殺人事件に発展したリ、最近のものとしては掲示板に犯行予告を行い、それを本当に実行した犯罪(秋葉原通り魔事件)も存在するほどである。しかしよく叫ばれるのは少年犯罪は増加傾向にあるとか、凶悪犯罪は増加傾向にあると言われている。だが本書では警察庁がまとめている「犯罪白書」をもとに93年〜2006年のデータを挙げているが、93年より前はどうだったのかというのがはっきりとしない。それにこのデータを見る限りでは2000年までは増加しているものの、それ以降は横ばい、もしくは減少している。ここ最近TVのニュースで取り上げられているが、それが増加になった根拠というのは実は虚妄であり、むしろメディアがストーリーを描きやすいという思惑もあるのかもしれない。
ネット型犯罪に関してはまだまだ検証の余地があると私は思う。というのはネットが直接の要因となるもの(例えば誹謗中傷などが原因)、間接的な原因となるもの(噂話)と言った者はネットという新しい「ツール」によってもたらされたものであり、ネットのような誹謗中傷などはネットが存在しなかった時代でもこういったことは起こりうるのではいかとさえ思う。例えば昔の学園ドラマであるような机やノートによる悪口の落書きや噂話によって犯罪になったり、被害者が不登校になったりというのがある。それがネットという新しい「ツール」によって変化したと考えれば、形態が変わったとはいえど、動機の要因はそれほど変わっていないのではないかと私は考える。インターネットによって犯罪が増えた、だからインターネットはなくそうなどという考えや論調は、極めて短絡的であるようにしか思えない。

余談ではあるが第四・五章では小泉政権がもたらした新自由主義についての批判をしている。社会額から見た犯罪ではあることは分かるが、それが若者犯罪をさせたきっかけになっているという理由付けはおかしい、とはいえ、先にのべた秋葉原通り魔事件はその理由も捨てきれない。しかし政治が悪いから少年犯罪が植えたというのもいかがなものかと思う。

終章「若者犯罪の凶悪化とは何か」
「若者犯罪は凶悪化しているのか」
というと私は変わらないと思っている。というのは少年の凶悪犯罪は戦前の時代からずっと起っているだけでメディアが騒いでいるにしか過ぎない。これについては以前、少年犯罪の書評の時にunrarさんが「少年犯罪データベース」というのを紹介してくれた。それによると今もさることながら昔の方がもっと惨い殺し方を行ったケースが数多く存在した。このサイトの情報を提供してくださったunrarさんに改めて感謝を申し上げる。

若者犯罪はなくなるかというと無くなりはしない。それは家族や地域間が今より疎遠ではなかった時代からずっと起っていることである。では少年犯罪を未然に防ぐ手立てはあるのかというと、子供に目を向け、親身になって聞くことと言うしか私が思いつくことがない。