追憶のハルマゲドン

本書によるとカート・ヴォネガットの没後一周年を記念して出版された短編集であり、未発表のものを中心に編纂された一冊である。

ヴォネガットの作品は60年代ごろから次々と翻訳されてきたが、80年代にはブームにまで発展し、爆笑問題の太田光もファンの一人とされている。そう考えると本書はヴェネガットファンにとってはたまらない一冊だが、ヴォネガットの「ヴォ」の字も知らない私がこの本から入るのも変なのかもしれない。しかしブームとなり、多くのファンに愛されているヴォネガット作品を見ないわけにはいかない。短編集からアプローチしていくのは少し間違った方法かもしれないが。

短編集であるがそのほとんどが戦争にまつわる作品である。愛国心、日本への憎悪、戦争の苦しみ・悲しみが如実に表現されていることが印象づく。とはいえSF感のある作品もある。
SFと戦争の関連で言うと小松左京を彷彿とさせる。沖縄戦に駆り出されながらも運良く生き残り、生きることの責任としてSF作品を作るきっかけになったのだという。戦争という混乱の中でどうしてSF作品を書くきっかけになったのだろうかというのが気になる。これを心理学的に考えてみたら何か面白い論考になるのかもしれない。

本書は全部で11編ある。戦争の生々しさもさることあるがSF作品独特のスリルも併せ持ちながら楽しめるという不思議な作品であった。ヴォカネットの作品はあまり読んだことがないのだが、ヴォカネット本来の良さを知るためにはこれだけではちょっと難しいのかもしれない。もう少しヴォカネットの世界を知るために関連の本を読んで知る必要がある。

読みやすさと不思議さはあるのだが、私にはわからない奥深さというのがヴォカネットファンにはわかるのかもしれない。