吉本隆明 全マンガ論―表現としてのマンガ・アニメ

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吉本隆明 全マンガ論―表現としてのマンガ・アニメ 吉本隆明 全マンガ論―表現としてのマンガ・アニメ
吉本 隆明

小学館クリエイティブ  2009-06
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「戦後思想界の巨人」と言われる吉本隆明氏が初めてマンガやアニメについて語った一冊である。
マンガやアニメというのは単なるサブカルチャーという観点から見る人が多いが、それを思想や哲学の観点から考察を行ってみたらどのようになるのかというのは楽しみである一方、アニメや漫画を突き詰めると必ずと言ってもいいほど哲学に直結するのかもしれない。吉本氏がアニメ・マンガをどのように斬っていくのか楽しみである。

第Ⅰ部「作品論」
作品は主に手塚治虫、「沈黙の艦隊」「サザエさん」、「AKIRA」やスタジオジブリ作品、「さらば宇宙戦艦ヤマト」が主に挙げられている。挙げられているもののほとんどがメジャーに出ており、かなりの人気を博したものばかりである。思想の観点からマンガを観ることもあるが、最初の手塚氏の作品では吉本氏自身の半生を回想しながら評論を行っている。手塚治虫が世に出始めたのは戦後間もなくしてのことであることを考えると、吉本氏は学び盛りのころであるが、手塚作品に関して最も愛着のあるように思えたのは、その時学術の傍ら子育てをしていたところにあったからだという。子どもたちに人気のあった「鉄腕アトム」や「リボンの騎士」などを代表されるように、著者にとっても縁があるように思えてならない。縁と言うと「サザエさん」もその一つなのかもしれない。「サザエさん」は長らく朝日新聞などで約28年間も連載を行ったとしても知られる。今では人気長寿アニメとして知られている。なお吉本氏はマンガの観点から考察を行っている。

第Ⅱ部「原理論」
本書のなかで最も難しいといってもいいところである。というのは吉本氏のホームグラウンドである哲学・思想というものが如実に出ているからである。
ここで紹介されている論術は大きく分けて3つで、「縮合論」「語相論」「パラ・イメージ論」である。
「縮合論」の「縮合」というのは哲学的にはこの言葉は存在せず、化学用語(縮合反応)からきており、それを哲学や思想に置き換えたものと言える。著者は東京工大出身であり、理系から思想界に飛び込んでいる足跡があることから、この言葉を利用することが可能になったのであろう。
「語相論」は「言葉(語)」と絵との「相性(相)」と言うべきなのかというと考えに窮するが絵から発せられるマンガでいう「吹き出し」から描き出される言葉に関しての考察をひとくくりにしてまとめたものであろう。マンガと言うと画ばかりが注目され、内容やその人物から発せられる言葉の深層についてあまり見ない論者が多いが、この吹きだしから出てくる言葉とそこから出てくる背景の画は作品によるが不思議な関係を持っている。それは言葉では言い表すことができず、マンガを読んでいる中でしかそのことは分かり得ない。
「パラ・イメージ論」は文章をもとにして図や画をイメージできるかということについて考察を行ったものであり、言葉を図にすることができるのか、そしてそれが正しいのか間違っているのかということについて考察を行っている。一見漫画とは関係がないように思えるのだが、画と言葉の両方を使う漫画ではこういった「パラ・イメージ」というのはつきまとっているといっても過言ではない。

第Ⅲ部「対談」
今度は吉本氏本人が様々な漫画家・原作者と対談を行ったものである。
主に少女漫画(萩尾望都)、アニメーション(りんたろう)、読書論(中沢新一)、ガンダム・イデオン(小川徹)、そして昨今話題となっているエヴァンゲリオン(大塚英志)の5つである。
少女漫画については先月あたりに取り上げたので割愛するとして、特に注目なのがガンダムとエヴァンゲリオンである。「ガンダム」においては「ロボット」と「人間」との狭間についてなど、「ロボット論」と言うべき対談であった。
さて「エヴァンゲリオン」である。
「エヴァンゲリオン」のアニメは劇場版でもいくつかあり、現在でも上映されている。戦闘やそれぞれのキャラクターの人間性というのがあるが、とりわけそれぞれのキャラクターの心情というのが如実に表れながらも「人間」や「心」と言った哲学的な観点から論じられることが多い。
この対談ではエヴァンゲリオンばかりではなく村上春樹や宮台真司に関しても言及している。

専ら漫画についての評論が多かったものの、マンガ・アニメに関して吉本氏ならではの切り口と言うのが斬新であった一方で、吉本氏は数多くの著書を出版されているが、それらの作品を見ないと理解できない個所もいくつかある。「戦後思想の巨人」の考察を評するのは生半可な学びや気持ちではできないと痛感したが、マンガやアニメに関して新たな切り口を学べただけでも収穫と言ったもいいかもしれない。

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