お母さん社長が行く!

本書は2〜3年前に掲載されたコラムをまとめた一冊である。
コラム連載・本書発売当時は代表取締役社長として活躍したが、ブックオフグループ創業者の坂本孝氏の不正経理やセクハラ問題の引責辞任により橋本氏は代表権のない取締役会長(CEOも兼ねている)に就いた。現在は「お母さん会長」というわけであるが、本書で紹介されているものと変わりない。

実は本書が発売される前に日経ビジネスのコラムに同所の内容が連載されていたわけであるが、連載当時は私自身就職活動中の時期で情報収集がてら日経ビジネスオンラインを毎日のようにみていた。特に同コラムはお気に入りであり、橋本氏の生涯とブックオフの販売スタイルを築き上げてきた歴史に私は感動したことを今でもはっきりと覚えている。
何度も繰り返すようだが本書はそれを一冊にまとめたものである。

第1章「短大卒・専業主婦の”お母さん”が一部上場企業の社長になりました」
2006年6月に橋本氏は代表取締役社長に就任した。パート出身、短大出という経歴で上場企業の社長に就任するのは異例であり、東証の情報から一気に話題となり、一躍「時の人」となった。しかも当時ブックオフは急進企業の一つとして名を馳せているだけあって、騒ぎは尋常ではなかった。他の例で言ってもアルバイトから社長になった吉野家ディー・アンド・シーの安部修仁がいるくらいである。

第2章「お母さんは、現場を「ちゃんと見ている」んです」
ブックオフはチェーン展開しており、それに準ずる企業の社長というのはなかなか現場を見ることができない、もしくはしないと言うところが多い。しかし橋本氏の根幹としてあるのが「現場」である。パートとしての経験もその土壌としてあるようだ。
本章では初めて店長についた第2号店の話が中心である。そこでは閉店の危機にあった店を現在のスタイルに変貌させ、息を吹き返したという話が書かれている。

第3章「橋本真由美はこうして「生まれ」ました」
著者である橋本氏の生涯が書かれている。短大を卒業してから給食会社、病院と働き、そこで知り合った男性と結婚し、専業主婦になった。ブックオフに入ったのは専業主婦の時で、1枚のチラシがきっかけであった。

第4章「ブックオフ人生、スタート!」
著者は第1号店オープンの時からブックオフに入社した。当時は巷にある古書店のような目利きというのがおらず、現在のようにマニュアルというものが無く、まさに試行錯誤の状態であった。試行錯誤の状態の中第2号店の店長を任されたが、そこで前述のような奇跡が生まれ、現在あるブックオフの販売スタイルが確立した。

第5章「辞表を書いたこと、2回あります」
店長として仕事は上場であった反面、専業主婦としての役割がおろそかになり辞表を出そうとしたことがあった。そのときには当時の社長(ブックオフの創業者である坂本氏)の叱咤で撤回になったのだが、店舗運営などについての反発も少なくなかったという。

第6章「開校!橋本学校」
今度は別の店舗における再建の話である。第2号店とは違った形立ったのだが、ここでは「働く人」のあり方について考えさせられた所である。アルバイト店員のボイコットという危機があったのだが、そこを買い取りや仕事のスタイルを変えていったことで、急激に売り上げを伸ばし、ボイコット組の店員にも浸透していった。この再建が数多くあるチェーン店舗の手本になったという。

第7章「最大の危機を越えて」
順風満帆といえる会社であったのだが、最大の危機というのは存在した。本以外のリユース事業がうまくいかないと言う事態であった。
これについて一つ思い当たる事例が存在する。規模は違うがセブンイレブンの本場であるアメリカのサウスランド社が92年に倒産の危機を迎えていた。石油事業などの経営の多角化が大きな原因であった。そこで日本で行われていたセブンイレブンのスタイルをアメリカで実践をしたことによりわずか3年で黒字転換したというものである。その危機が本章の危機に似ているように思えてならなかった。
その再建のためのエピソードも余すところ無くかかれていたが、働き手である「人」を育てる、また「人」を扱う難しさというのを見せつけられた所であった。

第8章「株式上場への長い道のり」
ブックオフは2004年3月に東証二部に上場し翌年3月に東証一部に鞍替えとなった。
前章のような危機ほどなのかどうかはわからないが、今も蔓延る「数字至上主義」「売上至上主義」というのが企業において、どれだけ悪影響を及ぼしているのかというのが浮き彫りになったところである。私が本書を読んだ中でもっともハラハラしたところであり、上場企業のリスクというのが露呈された所ともいえる。
とはいえ、上場企業が悪いというわけではない。上場企業ともなれば企業が日本の経済界に広く認知され、企業ブランドのイメージアップにもつながる。ほかにもいろいろあるのだが、単純に言うと上場するというのは「ハイリスク・ハイリターン」を受け止めるという意義になると考えられる。

第9章「私の使命、ブックオフの未来」
これまで数多くの武勇伝とエピソードについて書かれてきたわけであるが、本章ではそれを踏まえて、これからどうしていくのかという抱負と、私たちへの提言が書かれている。
本書の帯紙にある「フリーターも、ニートも、主婦も、みんな立派な戦力です。」とある。その言葉を裏付ける理由が本章に書かれている。

ブックオフは古本業界には無くてはならない存在にまで成長を遂げた。その中で独自の現場づくりに奔走をした著者は今も会長という立場でありながら現場にも足を運んでいるという。この現場力については昨年発売されており、FC業界にどのような影響を及ぼすのか楽しみである。