史上最大の伝染病牛疫―根絶までの4000年

先ごろから「H1N1」という新型インフルエンザに酔って騒がれているが、この時期になって季節性のインフルエンザも出てき始めるころである。「パンデミック」の様相になっている新型インフルエンザであるが、過去にもインフルエンザをはじめとした伝染病によるものがあった。代表的なものでは「スペイン風邪」「ペスト」「天然痘」などが有名である。

さて本書は「牛疫」であるが、これは牛や豚などの家畜に対してかかる感染症の一種であり、はるか昔から存在していた病である。ちなみに日本では1932年以来発生例はないという。本書はこの牛疫が日本において廃絶された経緯について迫るとともに、昨今話題となっている「新型インフルエンザ」に対して、どういったヒントをくれるのかというのを解き明かした一冊である。

第1章「牛疫とはどんな病気か」
「牛疫」の病気について詳しく書かれているが、本書の最初で紹介したように牛や豚などの家畜に対してかかる病気であるが、とりわけ牛に対しては高い死亡率と感染例があり、通称「牛のペスト」とまで呼ばれていた。

第2章「古代から中世にかけての牛疫」
本書のタイトルにもなった4000年とあるが、具体的にいつ頃からかかり始めたのかと言うと紀元前2130年辺りにパピルスが見つけたと推測されていることからタイトルになったという。
また旧約聖書にも古代ローマにおいても「牛疫」が登場しており、悩みの種にあったという。

第3章「牛疫が近代獣医学の出発点をもたらす」
この牛疫は獣医学の歴史とともに歩んでいったのだろうかとも考えてしまう。確かに獣医学はこの病気から歩み始めたわけであるが、脚光を浴びたのは18世紀になってからである。イタリアのパドゥア近郊で市債の牛に「牛疫」が発生し、司祭の友人とパドゥア大学の医学教授のもとで解剖などによる原因究明を行い、対策を行った結果、9か月で牛疫はなくなったと言われている。効果的な対策の中で最も古いものとされているが、現代においてもそれに近いことが可能かもしれない。

第4章「世界中に広がり始めた牛疫」
牛にまつわる病気は牛疫だけではなくBSEと言われる「狂牛病」、さらには「口蹄疫」などが挙げられおり、共通して言えるのはイギリスから世界中に発症例が広がったということである。牛疫もまた例外ではなかった。

第5章「牛疫の原因はウィルス」
医学は進歩を重ね、ようやく明確な原因を特定することができるようになった。章題にもあるとおりウィルスであったという。

第6章「牛疫予防への道のり」
原因が特定できれば、あとは予防であるが、これはウィルスの血清を作りワクチンを作るといった手法は現代にも通用している。

第7章「日本でも大きな被害をもたらしていた牛疫」
イタリアやイギリスにおいて猛威をふるった。では日本ではどうだったのだろうか。
日本では文献によると17世紀末期辺りにから猛威を振るったと判明されている。しかし当時の慣習では牛肉を摂取することは禁忌を犯すこととされていたため、それほど影響がないように思えるが、食べる手段以外で支障をきたしていたのは確かである。

第8章「牛疫対策を中心として進展した日本の家畜伝染病対策」
最初にも述べたが日本では1932年以降発症例はないとされている。この約250年のあいだにどのような対策を講じてきたのだろうか。
明治時代末期に、牛が外国から輸入される港において、検疫所を設けるなど海外からはいっていく動物に対し様々な検査を行い、それを通ったものが初めて輸入されるという方法を行った。現在における「検疫」の原型が明治時代から確立されてきたわけである。

第9章「朝鮮半島と満州での牛疫対策」
韓国併合や満州事変により、日本の領土を広げていた時代、当然その場所においても本土と同じ、あるいはそれ以上の権益を行ったと言われている。

第10章「第二次世界大戦後も最も重要だった日本の牛疫対策」
しかし第二次世界大戦後、当時の検疫体制が崩れ、密輸入が増えるなど、牛疫がふたたび流行をするのかという心配が政府や農林省などで囁かれていた。またGHQからの指令もあったために、難航したこともあったのだが、早急なワクチン製造と検疫体制の強化により難を逃れた。

第11章「牛疫と生物兵器」
第二次世界大戦の話になるが、敗戦食濃厚であった時、緊急作戦として「風船爆弾」を投下するものがあった。TVでも何度か取り上げられているが、何重にも重ねた和紙をこんにゃく糊で貼り合わせた気球で爆弾を搭載してアメリカ大陸まで飛ばして攻撃をするというものである。
作戦自体、そこそこ効果はあったものの、アメリカ側の情報操作(それに関する死亡ニュースを出さないなどのこと)に惑わされ、雲散霧消となった。

第12章「日本人科学者の活躍」
戦前、朝鮮半島や満州、台湾において牛疫の宝庫とも言われてきたがそれを根絶し、中国からの感染流入に歯止めをかけたと言われているが、第二次世界大戦後もカンボジアやエジプトなどでも効果があったのだという。日本が牛疫根絶の先駆者であり、科学者によって牛疫という言葉が「死語」とさせた功績は大きいと言える。

第13章「世界的牛疫根絶計画」
先進国では牛疫の撲滅が進んでいるが、アフリカ大陸では根絶されたものの、ふたたび流行するといった循環が絶えなかった。それを断ち切るために1987年全アフリカ牛疫撲滅作戦と銘打って先進国の協力を得ながら根絶を行っているが、見込みでは来年にも根絶宣言が出されるまでに至ったという。

第14章「私と牛疫」
著者は狂牛病やプリオン病といったウィルス研究を行っており、牛疫に関する研究も例外なく行っている。著者が牛疫ウィルスに初めて出会ったのは1965年、本書は35年にも及ぶ研究の集大成と言える。

本書に出会うまで私は「牛疫」という言葉は知らなかった。獣医学の進歩によりこの言葉が聞かれなくなったと言える。医学は絶えまなく進化しており、もはや聞かれなくなった病気も数多くある。しかしその一方で新たなウィルスや病気も出てきていることは確かである。あたかもイタチゴッコであるかのように。医学が進化をするのと同じくしてウィルスや病気も進化する。しかしそれを食い止めるべく医師や医学研究者たちの戦いも終わらない。

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