裸でも生きる――25歳女性起業家の号泣戦記

株式会社オトバンク 上田渉様より献本御礼
本書の著者は小さいころいじめに遭い、非行に走り、偏差値のギャップをはねのけ慶応大に合格、その後発展途上国を救うためにバングラデシュで起業をしたという波乱万丈の25年間を送った方である。

短的に著者の25年を記したが、それでは語り尽くせないほどの困難や受難を乗り越えてきた女性の姿が本書にある。等身大の著者の姿、等身大の半生がここにある。この人生があったからでこそ今の私がいる。本書はそう語りかけるようだった。

第1章「原点。学校って本当に正しいの?」
著者は小学校の時にクラスの子にいじめられ、中学校では非行に走り、高校では工業高校に入り柔道に明け暮れた。本章で印象的だったのが高校時代のことについてである。著者は工業高校の柔道部に入ったが、そこには男子柔道部しかなく、そこで鍛えたという。過酷な練習、度重なる怪我や挫折……それでも著者は最後までひたむきであった。それが後に女性起業家として活躍する原動力の一つとなった。
後に工業高校という大きなハンデを乗り越えて、慶応大に合格を果たした。

第2章「大学で教える理論と現実の矛盾」
大学における研究発表やアメリカ留学をしていた時のエピソードである。その留学中に途上国に行こうと志した。

第3章「アジア最貧国の真実」
アジアのなかでも最貧国と呼ばれる地、バングラデシュ。
バングラデシュについて簡単に説明するが、独立戦争を経て1971年にパキスタンから独立を果たした。人口は日本よりも多い1億5千万人である一方、国土が日本より狭く、世界でも有数の人口密集国である。
独立後長らくクーデターによる政権交代が行われていたが、1990年以降に選挙が行われ始め民主主義国として歩んでいる。
しかし政治汚職が絶えず、各国から国際援助を受けているものの貧困化脱出の糸口が見えないでいる。
本章では初めてバングラデシュの地を踏んだことについて生々しく書かれている。衝撃と自分自身どうして生まれたかの葛藤が自分の胸に突き刺さるようだった。

第4章「はじめての日本人留学生」
バングラデシュで日本人留学生として大学院に入学した。その後大学院を通学しながら日本の商社(バングラデシュにも支社があるという)にも就職した。バングラデシュの大学院というと世界的に見ても「無名」といってもおかしくない。しかし「無名」であろうとも大切なことを教えてくれると確信して、そしてここでしか学べないところがあると考えて著者は入学したのだろう。

第5章「途上国初のブランドを創る」
商社で働いている時のこと、あるブランドに出会い、バングラデシュ発のブランドバッグを創ろうと志した。バッグのデザインはすぐにできたのだが、そこからどのように売るのか、どのようにつくるのかという課題が山積していた。
大学という学びの畑に、事務という畑にいた著者だったのだが、初めてビジネスという厳しい「壁」に出会った瞬間であった。

第6章「「売る」という新たなハードル」
自分のブランドを創り、ようやく売る所に入って行った。飛ぶように売れたというわけではないのだが、「売る」という喜びに浸った様子を書いている。

第7章「人の気持ちに甘えていた」
しかし「売る」だけでは商売は成り立たず、人の気持ちにも甘えていた。著者がそのことについて痛感したところである。バッグを知るため、もっといいバッグを創るため職人のもとで修業を行っている。そこでバッグのつくり方だけではなく、人間としても又学んだという感じがあった。

第8章「裏切りの先に見えたもの」
おそらく本書のなかで、最も衝撃的なところである。
本章はパスポート盗難事件から始まっているのだが、そこから著者と工場との不信感が増大して言った。そして本書で最も衝撃的な事件が起こった。
デモによる外出禁止令が解かれたある日、著者は工場へ向かった。何とそこはもぬけのがらであったという。
本書のなかで最大の「裏切り」。私がその場にいたらどのような感情であったのだろうか分からない。
絶望の淵のなかにも希望を見つけ、そこからまた再スタートをしていった著者はいよいよ日本に帰国した。

第9章「本当のはじまり」
バングラデシュ発のブランドの直営店が日本に誕生した所である。
場所は東京の下町・入谷という所に一昨年の8月21日に誕生した。
単身でバングラデシュの地を踏み、そこから様々な裏切りや悲しみ、困難を経験し、バングラデシュ発のブランドを創る、そのことに胸にひたむきに作り上げたブランド、その名は「マザーハウス」。

本書を読んだ直接的な感想を言うと、「面白かった」や「感動した」とは言い表せない、それ以上に「チャレンジをすること」「どんな困難でも乗り越えて行こう」という気持ちが高まっていくように思えた。
著者は涙を流した経験は数知れず、逃げ出したくなった時も数知れない。それでもひたむきに前に進む姿は、年の近い私から見るとこれ以上ない「強さ」を覚えた。本書のタイトルは「裸でも生きる」。その姿は飾りも何もない、著者そのものの「強さ」というのを学んだ。
今年読んだ本のなかで、最も衝撃を覚えながらも、感動と勇気を与えてくれた本であるということは否定できない。