仕事と日本人

近年は労働基準法の改正や「ワーク・ライフ・バランス」が提唱されたことにより、若干ではあるが日本人の平均労働時間は減少しつつある。しかし、それでも過酷な残業やサービス残業というのは後を絶たない。労働状況というのもあるが、自ら進んで残業をやる、残業代が出るからという理由で無駄な残業をするという人もいる。あれだけ「残業を減らそう」と唱えていてもこういう状況ではある種の無駄骨と言わざるを得なくなるが、日本人の労働観にもそれはあるのかもしれない。

本書は日本人の労働観や仕事の接し方など、労働改善という考えなしで真っ向から考察を行った一冊である。

第1章「豊かな国の今、問われる選択」
豊かな国には働ける場所がたくさんある…という考えが一瞬にして崩れ去る時が来ている。日本では派遣切りや大規模なリストラにより明日仕事できるかという保証がない。
海外でも2006年フランスで25歳以下の若者に対し理由のいかんを問わずに解雇をすることができるという法案が可決された。そのことをうけてフランス全土で大規模な抗議デモが起こり法案可決が取下げられるというニュースがあった。
若者は働ける場がいくらでもあると言われているが、大人達のエゴイズムによりそれがはばまれているというのも事実としてある。
さらには働いても生活が良くならない「ワーキングプア」、働きすぎであるにも関わらず、まだ仕事への欲望が強い「仕事中毒(ワーカホリック)」というのも存在する。
これらのことを挙げると働く意味、働くことの喜びが見出だすことができないのではとつくづく思ってしまう。

第2章「「労働」という言葉」
では働くにちなんで「労働」という言葉をとある辞書で調べてみた。

(1)からだを使って働くこと。特に賃金や報酬を得るために働くこと。また、一般に働くこと。
(2)〔経〕 人間が道具を利用して自然の素材を目的に応じて加工し、生活に必要な財貨を生みだす活動。(いつも利用している辞書より)

身体を使って、賃金といった報酬を得るために働くということにある。時間内にどの程度働き、どれらけの成果を得たのかというのも賃金を支払われるバロメーターとしてある。
本書では、日本人の特性についても興味深く「日本人は怠惰である」は印象的であった。享楽的であり、小さなことで満足をするということからこう主張しているが、江戸時代での鎖国とその影響による保守的・守旧的な考えが蔓延っているからであろう。

第3章「「仕事」の世界、「はたらき」の世界」
労働の概念は時代とともに変化していったというのはあるが、それ以上に平穏が維持されているときは祝祭日が増え、革命など時代大きく変化をするときには減少するという。前章において「日本人は怠惰である」は鎖国の傘の下で革命も起こらず平穏にあったことからとも言える。

第4章「「労働」概念の成立」
そもそも「労働」という言葉は日本でいつ頃できあがったのだろうか。
江戸時代は身分の差がはっきりとしており鳶職や飛脚、商人といった「職人」がそれぞれ腕を競い合った。効率や生産性、はたまた賃金は二の次であった。
しかし明治になってから海外、特に欧米列強の技術や思想を学んだ事により、労働の近代化も進んだ。効率や生産といった概念がここで生まれ、そこから「労働」という概念が生まれた。

第5章「時間の規律」
労働における「時間」という概念はあまり馴染みがない。朝起きたら働き、日が暮れたら家に帰る。仕事によれば四六時中働くということもあった。日曜日や土曜日の休日はそれほど多くなかったものの仕事を一つの「生業」という観点でとらえていたのかもしれない。
しかし海外から見て日本の労働は「時間に無頓着」に見えていた。実際に現在の「定時」や「時間労働制」というのは明治に入ってから、もとい鎖国が解放され、日本人が欧米列強の技術を取り入れられ始めたときから形成されていった、といってもいいのかもしれない。

第6章「残業の意味」
時間外労働は現在では当然「残業」として扱われる。「残業」は労働法上違反しない限り許されているが、昨今ではワーク・ライフ・バランス、効率化というような文句で残業をなるべく減らそうと動いている企業が多い。しかしこの「残業」を忌避する概念は今に始まったことではない。
明治以降に入って時間労働が浸透し始めた。それまでは「残業」という概念がなかったので、自由な時間帯(というより時間の「どんぶり勘定」といったのが正しいか)で働くことができた。
また、日本では「残業」という言葉自体も誕生したのは昭和に入ってから、戦前の軍需から始まったものである。

第7章「賃金と仕事の評価」
「労働」の対価として支払われるのが「賃金」である。この「賃金」も言い方を変えれば「給料」であったり、「お給金」という呼ばれ方もする。
この「賃金」も20世紀に入ってから使われ始めた言葉であるが(使われ始めた当時は「賃銀」であった)、ここでは賃金の国語的な意味から戦前・戦後にかけて「賃金」の変遷について書かれている。

第8章「近代的な労働観の超克」
「近代的な労働観」というと皆様は何を想像するだろうか。
労働観は人それぞれあるのだが、「近代的」というと「効率化」「生産性の向上」「ワーク・ライフ・バランス」と響きがいい。ただそれが伴っているかどうかというと良い意味で為し得ている企業もあれば、そうでない企業もある。
また「会社に縛られない」働き方も、増えてきており、「労働観」も他に例外なく多様化している。

「働く意味」「働く喜び」というものはいくつもある。しかしこれまで日本人が「働く」ことに関してどのような考えを持ったのか、そして現在のような言葉の乱舞はいつから始まったのか、本書はそれを教えてくれる。現実を見据えながら、これからどのように発展していくのか。本書はその「現実」と「歴史」を表している。