百人一首の歴史学

皆さんは「百人一首」というのをやったことがあるか。

私は小学校の時に友人がもってきて、それでやったのだが、とる札が木でできており、しかも達筆なので下の句がなかなか読めず、お手つきを数え切れないほどやったことについて本書を読んで思い出した。良い記憶か悪い記憶か定かではないが「百人一首」というと平安時代、それ以前の和歌を100人挙げている。有名なところでは紀友則、蝉丸、猿丸大夫、小野小町が挙げられる。

本書は百人一首の句から読み取れる歴史について紐解いた一冊である。

Ⅰ.「「百人一首」の時代」
百人一首ができたのは鎌倉時代、藤原定家によって作られた。本章では100首を様々な形で統計している。百人一首をやったひと、もしくはそれにある句を詠んだ人はわかるのだが、恋や季節のことを取り上げているのが多い。また詠み手も男性であれば官吏、女性であれば妻が多いという。ちなみに天皇、またはその血筋にある者も詠み手として7首取り上げられている。

Ⅱ.「神と人――敗れし者の系譜」
先ほど述べた7首は歴代天皇、あるいはその血筋にある者たちが詠まれた句であるが、本章では後者としてのウェイトを占めている、というよりもそれを中心に書かれている。中納言家持から順徳院に至るまでの「敗者」にクローズアップしているところである。

Ⅲ.「男と女――「恋は曲者」」
「恋」をテーマにした和歌は百首ある中で最も多く43首もある。
古典作品でも有名な「和泉式部日記」の和泉式部や「枕草子」の清少納言、「源氏物語」の紫式部、「蜻蛉日記」の右大将道綱母などが挙げられる。
平安時代ではしきたりの多い中で宮中における「恋」が表現されることが多く、男女問わず詠まれているが、前述の通り女性の方が多く、かつ有名であるといえる。女性ならではの繊細さが魅力であるといえる。

Ⅳ.「都と鄙――「名所」「歌枕」への誘い」
「鄙」はなんと読むのだろうかと考えてしまう人がいるかもしれない。ちなみにこの漢字は「ひな」と読むが、中流・下流階級のことを表している。「和歌」というと天皇や高級貴族のことを想像するかもしれないが、実は中流・下流層の貴族が多いというのは私自身、本章を読むまで知らなかった。本章では「都」と「鄙」それぞれ、あるいは両方の思いを詠んだ句を中心に取り上げられている。

Ⅴ.「虚と実――王朝の記憶を」
本章で挙げられている句は小野小町や在原業平など、国語や歴史の題材になるほどの有名人である。
彼らが詠まれた句は能に落語にと広がりを見せ、詠み手以上の虚像を作り上げている。

Ⅵ.「「百人一首」に時代をめくる」
本章では百人一首の時代性をまとめたところである。日本における「中世」のことについて描いているのだが、奈良時代、平安時代、そしてこの百人一首がつくられた鎌倉時代に至るまで、約500年もの歴史の中から選りすぐりの句を選んで、完成したものである。しかし階級がはっきりしていた時代の中で、現代のように垣根を越えた者を生み出すこと、そしてそれが長きにわたり語り継がれているところを見ると、階級や恋など様々な思いが変わることがなかったという証明になるのかもしれない。

百人一首を見るだけでもこれほどまでおく深い世界があるということは知らなかった。100首の裏に在る思い、背景、というのは様々であるにせよ、そこに歴史の息吹は残っているというのを立証できた一冊と言える。
クリスマスが過ぎると、いよいよ正月。歴史とともに百人一首を愉しんでみてはどうか。