こころの価値を売る世界にただひとつだけの会社

洋泉社 依田様より献本御礼。
元来ある「資本主義」は他の企業を踏み台にして成長を遂げる、言わば「競争社会」であった。ところが一昨年から続く大恐慌によりそのシステムが崩壊しつつある。本書は「競争で勝つ」ことよりも社員や顧客の「こころの価値」を売り、利益よりも「win-win」の関係をつくる大切さをケースをもとに説いた一冊である。

第1章「肉食系企業と草食系企業」
近頃「草食系男子」と「肉食系女子」という言葉が流行している。ちなみに私は「雑食系」だが。
自分ごとは置いといて、ここでは「企業」のことを言っているので、他を蹴落としても利益を得る「肉食系」、争わずに「こころで売る」ことを行う「草食系」の会社を実際に行っている5社を紹介している。

第2章「キリングフィールドからの脱出」
「キリングフィールド」は簡単に言うと「殺し合いの場」と言い、現在の「レッド・オーシャン」とかなり近い。
とりわけ「モノ」を作る場、自動車や食品などにおける市場の多くはそのようなこととなっている。
では話題となっている「ブルー・オーシャン」はよいかというと、「ベターであるがベストではない」といえるのかもしれない。いくら「ブルー・オーシャン」の市場でも、そこで「心を満足させる」とは限らないからである。
「市場」には目もくれず「心」に響くモノ・サービスを提供する企業、多様化する志向の中でどれだけ人を満足させるか、「草食系企業」はそこを重要視している。

第3章「ハードなビジネスからソフトなビジネスへ」
「ハード」と「ソフト」、その違いは一体何だろうか。これはある経済用語から引っ張ってくるといいかもしれない。

「ハード」→「GNP」「GDP」
「ソフト」→「GNH」「GNC」

「ハード」の部分は誰でも聞いたことがある「国民総生産」と「国内総生産」である。いわゆるモノの売れ行きやサービスの売れ行きによって経済が活性化し、生産がどれくらいあるのかを見るモノサシとして使われる。
一方の「ソフト」はあまり聞き慣れない用語である。ちょっと解説してみると「GNH」は「国民総幸福量」と言い、ブータンの前国王、ジグメ・シンゲ・ワンチュクが考案し、提唱したものである。それが現在のブータンにおける国家の重要政策の一つとして挙げられており、それをもとに経済や環境政策を立て、実行をしているという。もうひとつ「GNC」は「国民総カッコよさ量」と言われる。「C」が「Cool」と言われているのが所以である。これはアニメなどのコンテンツによる「ジャパン・クール(「クール・ジャパン」とも言う)」と言われていることから名づけられた。当然これに関して日本は世界トップクラスを誇っている。「草食系企業」のビジネス、ひいては向かう目標はまさに「ソフト」に向かっていると言っても過言ではないことを本章では言っている。

第4章「ココロビジネスに転換しよう」
「「草食系企業」になろう!」といってもどのような価値を提供し、会社と従業員はどのような関係でいたのが良いかということについて提唱している。従来の企業では「経済的な価値」、すなわち収益といった形のあるモノを提供をし、従業員とは「契約」や「主従」の関係をもつ。
ところが「草食系企業」では「経済的な価値」だけではなく、「精神的な価値」を与えることも役割を担っている。

第5章「草食系社員で行こう!」
「草食系」という言葉は色々な場で使われている。その一方で高度経済成長下に形成された精神論といったもの、例えば電通の「鬼十則」が挙げられる。そう言った企業に草食系社員が行くと、たちまち孤立してしまうのだが、企業単位で「草食系」になれば「草食系社員」の価値も上がってくる。

「草食系」というとニュースでは「消極的」とか「人畜無害」とか言われている。しかし「草食系」の本来の特徴は他人に対して「心の価値」を提供する人、ことと考えてみると、「草食系」はあながち悪くないように思える。むしろ「草食系」の目指すべきところが見えてきたと本書を読んで思った。