男はなぜ化粧をしたがるのか

一見すると奇妙なタイトルであるが、男性でも化粧をする機会は職業により存在する。今では歌舞伎にしても、俳優にしても化粧をする機会がある。そうでなくても男性を対象とした化粧品も販売されている。昔の公家といった階級でも白粉やお歯黒といったものをつけていたということを考えると、化粧は女性だけの文化でないことがわかる。

本書は男性における化粧の変遷と傾向について、化粧のみならず、顔や髪のスタイルも交えながら、考察を行っている。

第一章「男の美顔は「権力交代」の証言者」
男の「美顔」は昔、その権威の象徴としてあった。それの代表として「化粧」をすることにより、美顔を作り、その階級であることを実証づけた。先ほど書いた「白粉」「お歯黒」といったことを行っていたのは平安時代である。そのときよりも前に女性がそれらをやっていたことを考えると女性に追随して行っていたと考えられるという。文字の文化、つまり「かな」が使われたのは女性からだといわれており、男性も追随するようになったことと同じだと言える。

第二章「男のヒゲは時代のモードの象徴」
女性が男性の髭に対してどのように思うのかというアンケートがあるが(要引用)、「不潔」や「気持ち悪い」という印象が強いようである。しかし日本における「髭」の歴史を辿っていくと、神話の時代では「素戔男尊(スサノオノミコト)」を筆頭に長かれ短かれ髭を生やしていた。現在のように髭が忌避されたのは奈良・平安時代、江戸時代中・後期が代表されているように、女性の立場から嫌われている傾向が強い。しかし男性の視点からは「髭」は権威や強さ、貫禄の象徴と考えられている。これはイラクなどの国でもそういった考え方がある。

第三章「髪は男の命」
女性もヘアスタイルを変えたり、染めたりする事がある。これは女性も男性も同じことがいえるかもしれないが、ここでは男性の視点をピックアップしたものなのであえて男性視点だけで見ていこうと思う。髪を整えることの始まりとされているのは戦国時代につくられた「月代」がある。これは髷の形を良くするために、前頭から中央までの頭髪を剃るためのものであり、それまでは1本ずつ抜いていた。髷を結う機会がなくなれば、今度はザンギリ頭にシフトされ、「モボ(モダン・ボーイ)」が出た頃、及び戦後の高度経済成長期にはポマードが多く出回った。また、ポマードと同じく戦前にもリーゼントが流行していたリーゼントも流行した。

第四章「遠くて近きは男女の化粧距離」
化粧における男女の距離について本章の冒頭に表にして表している。髭をなくす傾向にするか、誇示する傾向にするかで距離が遠くなったり、近くなったりしていることが表の中で見えてくる。女性との距離は髭に影響しているのだろうか。

男性における化粧の歴史は私自身初めて見たという話ではない。初めて以上にここまで奥が深いのかと驚嘆するばかりである。それと同時に女性の化粧との距離を比較しているところを言うと、本書は私の知的好奇心がくすぐられる一冊であった。