働く意味とキャリア形成

高度経済成長期は「働くことの意味」を考えることなく、只々目の前の仕事に対して一生懸命になることで生計を立てたり、生き甲斐と思ったりすることがあった。転職もあまりなく、一度就職した会社に約40年間勤めることもできた。「24時間働けますか」という時代でも誰しも不満に思うことが少なかった。

しかし高度経済成長も終わり、バブルが弾けた頃から「働くこと」への意義を見いだすことが始まった。ただ「労働観」に関して世界に視野を広げると紀元前から時代、宗教とともに変化をしていることは最近書評した本の中で明らかになっている

本書は働く意味を見いだす、もしくはキャリアアップをするような本とは少し異なっており、世代や時代における「働くこと」、そして「キャリアアップ」の考え方について統計をもとに考察を行っている一冊である。

第一章「働く目的と職業の意義」
日本の労働時間は世界に比べて長く、さらに残業時間も長いと言う指摘がある。統計上でも表れているが、欧米では残業と言うよりもむしろ「前業」といって、翌日の朝に自宅で仕事をすることを行っている。そのため統計では表れないほどの労働時間を行っていることを考えると、日本人も欧米人も労働時間はさほど変わらないように思える。ただ、仕事をどこでいつやるのかという考えが異なっている。
日本では私たちの世代とそこから一回り・二回り上の世代の仕事や会社に関する考え方が違っている。上の世代は「組織人」もしくは「会社人」と言う考えが強いが、私たちの世代ではむしろ「仕事人」もしくは「自由人」という傾向が強い。ただ私とほど近い「ゆとり世代」はむしろ「会社人」と「仕事人」、「自由人」がそれぞれドッキングをしている感じがある。労働観も時代とともに変化をしており、とりわけバブル崩壊以後、そして「リーマン・ショック」前後ではまるで違っている。

第二章「仕事の条件と職業倫理」
組織の固定化、会社の固定化の澱が出ているのだろうか、企業による偽装や不祥事が後を絶たない。特に経営陣の固定化により、組織的な不祥事や偽装が起こっている傾向にある。日本の官僚がバッシングされているのと同じように、民間企業でも官僚よりたちの悪いものがあるのではと考えてしまう。
ほかにも「企業の利益」を過度に追求してしまうことによるものも一因としてあげられる。最近では企業の目的として「全体の利益」や「社会貢献」を第一優先にしている企業もあり、企業のあり方も少しずつではあるが変化をしている。

第三章「企業意識と職業意識」
私は会社の活動以外でセミナーや交流会に足を運ぶことが多い。そこの場で名刺交換をする機会もあるが、その中で傾向があるのは職業が先か、それとも会社名が先かと言うものである。ほかにも名前だけしかないものもあるが、本章では割愛する。前者は主に自らの仕事を前面に押し出すスタイル、欧米ではそれが多いという。逆に後者は企業のブランドを前面に押し出すものであり、日本ではその傾向が強い。日本では就職する、もしくは部課に配属した時点で名刺が支給されることからきているのではないかと考える。

第四章「多様な働き方の光と影」
今となっては正社員ばかりではなく、派遣、アルバイト、フリーランスなど労働のスタイルは多様化している。しかし多様化はいいところばかりではなく、派遣切りや貧困を招く要因にもなってしまっている。企業も人件費の削減にもってこいとして派遣に切り替えたり、アルバイトしか雇わないというところもある。
ほかにも不況になることによってブームとなっている「週末起業」や自宅など働く場所を選ばない「ノマドワーキング」などが挙げられる。
但し、労働の変化による影は付き物であるが、それをどのように解消するのかにも目を向けていく必要があるのは確かである。

第五章「プロフェッショナル志向の高まりと転職行動」
もはや同じ会社にとどまると言うことが少なくなった今、転職市場は活況である・・・と言いたいところだが、実際の転職市場は求人が集まらないという。ましてや職歴や経験など、シビアにみるところも多く、なかなか思うとおりな仕事に就くどころか、仕事すら見つからない。
転職をすると言っても職場環境になじめない、倒産やリストラ、キャリアアップなど様々である。
特にキャリアアップの中でも、仕事においてスペシャリスト志向、もしくはナレッジ・ワーカー志向の傾向にあると著者は指摘している。

第六章「組織内キャリアとキャリア開発」
こうした労働の多様化に関して、会社の中で社内ベンチャーをする、もしくは会社内でのキャリアアップを計画すると言ったことも行っている。

第七章「ワークキャリアとライフキャリアの統合に向けて」
仕事と家庭を大切にすると言う考えは最近になって強く叫ばれてきている。「ワークライフバランス」と言うのがある。しかし最近となってはワークキャリアだけではなく、ライフキャリアと言うのも重要視されてくると言う。ライフの部分では仕事以外の部分、たとえば趣味や生活の面でどれだけ濃い体験をしたかどうかも要素に入るという。「ワークライフバランス」をみてみると仕事も生活も程々に、という考えになってしまうかもしれないが、「そうか、君は課長になったのか。」でおなじみの佐々木常夫氏のように仕事・家庭それぞれ壮絶な体験をしている人もいる。「ワークライフバランス」を一概にいってもそれらをどのように充実していくのかというのも労働の課題の一つとなっていく。

日本人の労働観はここ最近劇的に変化をしている。その辺かの中で自らはどのような労働をしていけばいいのか、仕事や生活の中で見いだす時がきたのではないかと本書を読んで思った。