常用漢字の事件簿

すでに国語の授業で習っている人も多いと思われるが、常用漢字は、普段文字を見る中で最低限覚えるべき感じのことであり、その漢字数は1945字にものぼる。高校までに覚える漢字の数であり、日本漢字能力検定の2級の範囲に相当する。

普段から使われる常用漢字を時代背景と事件をもとに漢字にまつわる「事件」を本書では追っている。

1.「無邪気な子どもの物語」
常用漢字が採用されたのは1973年のことである。それまでは「当用漢字表」と言うのが戦後間もない頃に制定された。当時は賛否両論も多かったものの、今となっては一般社会に深く浸透している。
現在「教育問題」はかなり叫ばれており、自分の名前を漢字で書くことのできない小学生や中学生がいるということを聞いたことがあるが、本章でも紹介されているが連続テレビ小説「おしん」の時代、ちょうど明治時代の半ば頃は識字率はそれほど高くなかった。将棋界では関西の名人と呼ばれ、舞台や歌にまでなった坂田三吉(土の下に口。「つちよし」という)は小さい頃から丁稚奉公に出されていて、字が読めなかったが気にしなかったというエピソードがある。時代と比較するのはあまり好ましいことではないが、その時代と比べて今は学べる機会があるというと幸せなのかもしれない。

2.「かい人21面相と昭和戯賊」
「どくいり きけん たべたら しぬで かい人21面相」
1984年の4月に新聞社に届いた脅迫文が送られた。グリコの商品に毒を混入したというものである。俗に言う「グリコ・森永事件」の始まりであった。犯人は「かい人21面相」と名乗った。江戸川乱歩の「明智小五郎シリーズ」に出てくる「怪人二十面相」を捩って名乗ったのは見てもわかることであるが、その犯人はグリコのみならず、丸大食品や森永にも移動した。上の文章がスーパーにある森永製品に貼られてあったという。この事件で日本中を恐怖のどん底に突き落とした。犯人は捕まらず、結局2000年に時効が成立し、全容は迷宮入りとなってしまった。
模倣犯も多かったもののこの事件とは違いすべて捕まっている。いろいろな理由があるかもしれないが、本章では脅迫文の作りかたに目を付けている。模倣犯はワープロで書かれているのに対し、「グリコ・森永事件」の犯人はパンライターと言うのを使っていたという。

3.「爛熟する消費社会」
漢字にまつわる法廷闘争について書かれている。ここでは焼酎と投入に出てきた「純」の商標権について、さらに育毛剤「大森林」の商標権侵害裁判について取り上げられている。

4.「バブルとワープロ専用機の二重奏」
今となってはパソコンで事足りるのだが、昔は機械で文書を作成するものとしてワープロと言うのがあった。誕生したのは1970年代後半であるが、日本経済がバブル景気になるにつれて出荷台数は急激に伸ばしたが、バブル崩壊とともに減少していった。

5.「ねえ、バラって漢字で書ける?」
バラは漢字で書くと「薔薇」である。それを鉛筆で書けるかというと私も自信がない。
本章ではバブル時代の真っ只中であった時代のCMや芸能界、さらにはお見合いブームと呼ばれた時代のことについて書かれている。

6.「新党十勇士とネット時代の夜明け」
「55年体制」と呼ばれた38年にもわたる自民党政権時代に終わりを告げたのは1993年、そのときはおめでたいものとして皇太子のご成婚のニュースもあれば、私の地元である北海道では北海道南西沖地震があり、奥尻島では津波により約230人の死者・不明者がでた。さらに相次ぐ台風、記録的な冷夏による「1993年米騒動」が起こった。
本章では最初に述べた政権交代について取り上げられている。「新党十勇士」は自民党を離島し、新しく「新党さきがけ」を作った十人の若手議員の人たちを指す。1993年からの「非自民八党連立政権」で与党の一つとなったが、翌年に自民党が政権に戻ったときも、「自社さ政権」で奇しくも離党した自民党とともに政権の舵取りを担ってしまった。

7.「平成大不況を生き抜くためには」
平成大不況を勝ち抜くためにPRをつくる、その中で漢字は重要な役割を担っていると言うことを主張している。

8.「漢字は正しく書かなくちゃ!」
ここでは旧字体のことについて述べられている。昔使われていた漢字のことを指しているが、たとえば「会」の旧字体は「會」と書かれる。ではなぜこの旧字体と新字体が混在しているのかというと、戦後GHQによるものとされている。

9.「情報化社会の暗い穴」
情報化社会は様々なものを便利にしてきた。しかしその陰で、漢字を書くことができなくなったと言うものから、私が勤めている業界でもプログラムの間違い一つでシステムが誤作動を起こしてしまうニュースもある。漢字もそうで読み方が多くなる一方で同音異議の漢字が増えてきており、コンピュータが追いつかないと言うのもある。

10.「中国から、そして中国へ」
中国と日本はともに漢字を使う国である。ちなみに韓国もハングルと漢字を両用する事がある。
ここでは漢字というよりも日本と中国大陸の歴史と言った方がいいだろう。

11.「漢字を知らない総理大臣」
確か一昨年から昨年にかけて務められた麻生太郎氏のことをいっているのかもしれない。記者会見や演説や答弁の中で漢字の間違いを新聞や雑誌は軒並み取り上げている。その矛先が麻生氏本人ばかりではなく、出身である小学校や大学にまで飛び火をしている有様である。麻生氏に限らずたった一言の「失言」を取り上げては「辞めろ」といったことをいうような揚げ足取りメディアがそこにあると言うほかない。むしろ言論の自由の中にはびこる「言葉狩り」をしているような気がする。

私も小学校の頃から漢字に親しみ、高校の時に漢検2級をとったこともある。当ブログでも漢字を多用することがある。それだけ漢字の思い入れもある。本書も常用漢字ということで飛びついたが、漢字にまつわるおもしろいエピソードで漢字に対する面白味が増してきたように思えた。