先端医療の社会学

医療技術の進化は著しい。特に最新鋭の医療を駆使して病を治療する技術のこと、そして最近叫ばれている病を治療する技術のことを「先端医療」という。医学に関して「時代の最先端」を行くという観点からも「先端医療」と解釈することができる。

「先端医療」と「社会学」、医療にまつわることであれば社会背景や倫理は避けて通れないほど共通性が強く、技術論や学問としての「医学」では罷り通れないことが多い。本書は接点の強い医療の中から「先端医療」を社会学的にいくつかの分野に分けて考察を行っている。

第1章「脳死と臓器移植」
日本で臓器移植が始まったのはごく最近で1997年10月に「臓器移植法」が施行されてからのことである。しかし臓器移植の認知度は芳しくなく、ドナーカードの登録率も少ない。
それだけではなく、臓器移植による自らの意思を求めること、さらには人間の体の定義(「人間機械論」という定義もある)についても医療や倫理の観点から議論されている。

第2章「出生前診断と選択的人工妊娠中絶」
前者はあまり聞きなれないので少し解説を行う。「出生前診断」は生まれてくる子供(胎児)がどのような病や障害をもって生まれてくるかというのを診断する方法である。障害や病をもって生まれてくるとなると、ふつうに生まれた胎児よりも子育てリスクは大きくなる。それをくい止めるために事前に診断を行い、章題の後者にある妊娠中絶を行うかどうかの判断材料にする。
出生前診断は妊娠中絶の議論よりも、むしろ「備え」という観点からあった方がよい。自分たちの子供のために予めどの子が産まれてくるのかについて知るほうが、生まれてから障害があるということを聞かされる前に身構えることができるからである。
人工妊娠中絶に関しては医学・倫理・宗教など議論の的となる学問が多岐にわたってしまい、複雑なものであるため、ここでは割愛する。

第3章「新遺伝学」
遺伝というと、たとえば生活習慣病、さらには伝染病のかかり易さなどに関わることが多い。
では「新遺伝学」というのはどのような学問なのか、そして「新」と言われているのだから「旧」もあるがそれはどのような学問なのか。こうまとめてみた。
「旧遺伝学」・・・遺伝的な因子を考慮せずDNAの表面的なところしか見ない
「新遺伝学」・・・遺伝の因子を考慮し、染色体単位で構造を読み解く学問。
これらの学問が発達することにより「遺伝子組み換え」の技術も生まれ、現在では食品などの分野にも浸透している。しかしこれにも懸念があり「生物災害(バイオハザード)」が起こると懸念する声もあり、モラトリアムとして医療や食品で規制する動きも強い。

第4章「生活習慣病」
本書の中でもっとも身近な分野といえる。
ガンや心筋梗塞、もっと身近なもので高血圧やメタボリックシンドロームに至るまで生活習慣からくる病はある。
しかし「生活習慣病」は本来「病気」のカテゴリーには入らない(ましてや「メタボリックシンドローム」は病気ではない)。
しかし、高血圧や高脂血症などの基となることととらえ、予め予防(というよりも治療)をするという考えから「病気」と呼ぶ人も少なくない。
「生活習慣病」の名が呼ばれ始めたのは1990年代になってからで、ちょうどガンでの死亡率がもっとも高くなった時である。

第5章「ホスピス」
「ホスピス」は最近いわれ始めた医療用語の一つである。終末期ケア(ターミナルケア)を行うための使節を指す、本章では「ホスピス緩和ケア」と呼ばれている。「ホスピス」の語源は聖クリストファー・ホスピスからとったものである。
ホスピスは無理な延命をせず、痛みを伴わない治療や死になるよう対処するというが、本人の意思に関係なく「倫理」や「宗教」的な観点からの議論が絶えない。

第6章「インフォームド・コンセント」
「インフォームド・コンセント」も先端医療の一つであり、医師が患者にたいして治療に関わる情報を提供をしたり、提案をしたりするものである。それにより患者はどのような治療を行えばよいのかについて自らの意思でえらぶことができ、自分の意思や体に見合った治療を行うことができる。ここでは議論というよりも「法制化」についての考察を行っている。

第7章「倫理委員会による研究審査」
これは本章を読んで初めて知ったことであるが医療研究には分野ごとに「倫理委員会」というのが設けられているそうである。これは医療に限らず工学や企業に至るまで設けられている。「倫理」の重要性が高まった表れと言えるが、最近のニュースと直結するところで「品格」や「倫理」の重要性はわかるが、その言葉があたかも「錦の旗」の様に扱われてしまい、言葉が独り歩きしてしまっているようでならない。

日本に限らず、世界的にも医療は進化を続けている。その進化の中で、今日の社会情勢や倫理などを鑑みて医療は進化を続けていく、そのことを考えると本書にある「先端医療」と「社会学」について考察を行う必要があることから本書が出版されたのではなかろうか。

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