ヘーゲルを総理大臣に!

(株)オトバンク 上田様より献本御礼。
それにしてもインパクトの強いタイトルである。何せ哲学者であるへーゲルが政治における要職中の要職に付いているのだから。「政治哲学」という学問があるが、その理論や哲学を政治の場において実践することができるかと考えると難しい印象を持つ。

本書では「もし」という前提で「へーゲルが総理大臣になったらどうなるか」という事を想像した一冊である。

第Ⅰ部「みんなのつぶやき<対話編>」
第1章「貧乏人は救うべきか?」
実際にへーゲルは哲学者であり、伝統のあるベルリン大学の総長をつとめ、プロイセン国家の政治にも関わったことがある。
史実はさておき、まずは貧乏人を救うこと、これは「格差解消」や「ベーシック・インカム」といった分野に関わる。資本主義のシステムがある以上、「格差」があるのは至極当然のことである。もし「格差が絶対にない社会」になるとしたら、社会主義や共産主義など「資本主義そのもの」を脱却しないといけない。

第2章「なぜ働くのか?」
ここでは「労働観」に関わる。最近では「働く」ということについて考える本が出ている。労働観の歴史といった本も存在するが、ここでは現代に置き換えてみることにする。へーゲルは「働くことは生きること」ととらえている。

第3章「欲求を満たすことがいいことなのか?」
欲求には様々なものがあり、「トイレに行きたい」といった生理的欲求から、夢を実現したい自己実現欲求まである。これはあまりにも有名な「マズローの自己実現理論」である。
金に対する欲求や地位・名誉、そして幸福に対する欲求について本章では述べている。

第4章「個人はちっぽけか?」
「個人」とはいっても、哲学的に語られる「人間論」や「存在」といったものではなく、社会における「個人の権利」、つまり日本国憲法などで保証されている権利についての議論である。

第5章「まともな人間でないとダメなのか?」
「まともな人間」とは何か。常識的なことをきちんと守れる人のことを指しているのか、それとも犯罪を犯さない人のことをいっているのか、その基準は人それぞれであり、一概に言うのは難しい。

第6章「家族に意味なんてあるのか?」
家族のことについての議論であるが、本書と内容がはずれるが、中国や韓国では儒教の教えなどで「家族主義」が心としているという。
日本も儒教による教えがある以上、「家族」の議論は起こりうると言える。

第7章「地域のおつき合いは必要なのか?」
少しスケールを広げて「地域」についての議論である。最近ではセキュリティや価値観の多様化によって「地域づきあい」が希薄化し、孤独死が社会問題化している。

第8章「国家なんているのか?」
「愛国心」に関しての議論であるが、「愛国心」に関しては他にも様々なところで書評をしたことがある。その中で特筆だったのは三島由紀夫のエピソードである。「愛国心のかたまり」と言われているが、そもそも本人は「愛国心」に関しては批判しており、自分自身は相思相愛の「愛」ではなく、一方的な愛である「恋」であるとしており、「恋国心」であると主張したことを思い出した。

第9章「政治にかかわる必要があるのか?」
今年の7月には参議院選挙、昨年には衆議院総選挙があった。「議会民主制」の賜物であるが、投票によって決められる、あるいは多数決によって決められるのが「民主主義」かというとそうではない。社会主義や共産主義の国でも制限はあるものの「選挙」や「議決」といったものはある。
では「民主主義」とは何か。元々国民の意見が反映されるように作られている政治システムである。

第10章「僕らは本当に自由なのか?」
「自由論」はこれまで多くの哲学者が語られてきたのだが、結局のところ「自由」とは何かという結論は見つかっていない。実際に「自由」はどのような意味か、「自由」はどこに存在するのか、「自由」の反対は何なのかなど、「自由」について考えるべき論題は数多くある。

第Ⅱ部「もしへーゲルが総理大臣なら<講義編>」
第11章「認め合うこと」
第Ⅰ部ではつぶやきをもとに様々なことについて議論をするという形式であったが、今度はつぶやきや議論をもとに本書のタイトルにある「もしもへーゲルが総理大臣になったら」、日本はこうなる、あるいはこうするといったことを掲げている。
本章では権利や労働、個人や地域のつぶやきをふまえ、権利の相互承認をつくること、簡単に言うと章題にある「認めあい」のことを言っている。

第12章「つながること」
地域のつながり、そして倫理といったところに通じる分野である。昨今では「品格」が叫ばれており、さらに「地域間の疎遠」も言われている。その中でかつて持っていた「つながり」、それも「形式的」ではなく、心も通わせるほどのつながりを持つことが大切であるとしている。

第13章「生きること」
ここでは「生きること」というよりも、「民主主義」の在り方についてのことを言っている。次のエピローグとつながるのだが、日本では昨年の8月に16年ぶりとなる政権交代を果たした。しかし経済も外交もいっこうによくなる兆しを見せておらず、日本の政治システムそのものが問われているといっても過言ではない。

「もしもへーゲルが総理大臣になったら」という形であったのだが、へーゲルの論考と日本の現状とをみながらどのような社会を築くべきかというのがよくわかる一冊である。へーゲルの哲学は、他の哲学者と同じように難解として知られている。日本の社会をへーゲルによって変えるという奇想天外な発想であるが、それがかえってへーゲルの持つ哲学を分かりやすく読み解くことができる様に思えた。

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