榊原式シンプル思考力

情報があたかも濁流のように氾濫し、かつ複雑化している時代からでこそ「シンプル」に考える力が必要であるという。

しかし「シンプル」に、とは言っても単細胞のように考えろと言うのではなく、時には論理的に、時には水平的に「わかりやすく」かみ砕いていく事が重要である。そのことによって複雑に物事が絡んでいた物も解きほぐしていくことによって「シンプル」な答えを見いだしていくことができる。

本書は「ミスター円」と呼ばれる元財務官がシンプルに考え、そして生きる術について伝授している。

1.「常識をシンプルに戻せ」
かつてバブル時代の時には不動産の買い占めや贅沢といったものが、あたかも「常識」として捉えられていた。その「常識」も時代とともに変わるものであり、かつて「あたりまえ」と呼ばれていたものは、もはや「非常識」となっている。
では昨今の「常識」をシンプルに考えてみると、どのように取り戻すのだろうか。高級な物は買わず、安くて良いものを買う。そして形のある一流のものに囲まれるよりは、技術的、さらには精神的に豊かになることで充実した毎日を送ることができる。
そのことを考えると日本古来からある「侘び、寂び」の文化の原点に返るのではないかと現在の状況からして思った。

2.「生活をシンプルに戻せ」
1章で既に言ってしまったのだが、シンプルな生活の事について提唱している。確か三浦展氏の「シンプル族の反乱」という本を昨年の2月に書評をしたことを思い出す。
シンプル族の年齢層はどちらかというと私とほとんど近く、だいたい20代後半〜30代にかけてが多い。合理的でありながら伝統的なもの、そしてエコであり、何よりも「自然」を愛した生活をする人たちのことである。
本章で提唱している衣食住に関してもそれとほとんど近い。他にも仕事や学びに関する事についても言及している。

3.「ビジネスをシンプルに戻せ」
著者は現在、早稲田大学教授として教鞭を執っている身である。
そのことから本章では私たちのいる「会社」や「企業」のビジネスのみならず、「大学」の教育ビジネスまで網羅している。
師との出逢い、社会へ出て行くための「教育」、そして会社の在り方に至るまで書かれている。

4.「政治をシンプルに戻せ」
おそらく最も複雑な物が絡み合っているものというと「政治」を連想してしまう。国会ではいくつかの党があり、大きな党になるとその中で会派や派閥ができる。その利害関係が絡み合うことによって私たちがかなうような政治ができなくなる。喩えがあっているかどうかわからないが「船頭多くして船山に上る」と言う言葉が似合っているように思える。
では、複雑に絡み合った政治をシンプルにするにはどうしたら良いのか。一つは農業、もう一つは医療にヒントが隠されているようである。

5.「日本をシンプルに戻せ」
日本はどのような国になるのか、これは政治や経済のみならず、国民一人一人に課せられた課題と言っても過言ではない。
では、どのようにして「シンプル」に戻せばよいのか。外国人が持っている日本、もしくは日本人の印象を訪ね回ると良いかもしれない。
伝統工芸もあれば、日本にしかないユニークな文化や技術がある。江戸時代で育んだ文化や趣が外国人にとって珍しい物に他ならない。それぞれの「個性」を持つことも国の特色になる。ユニークさや珍しさをもっと増やしつつ、日本人の心を忘れないこと。これもまた一つの答えである。

「シンプル」と言っても様々な意味合いを持つ。しかし本書が捉えている「シンプル」とはいったい何なのだろうか。キーワードとしてあるのは「自然」と「原点回帰」という言葉が浮かぶ。「温故知新」という言葉もあるように日本はどのような道をたどればよいのか、自然を学ぶことと歴史を学ぶこと、そのことにあると本書を読んでそう思った。