比べない生き方

著者はこれまで組織術やリーダーシップ、あるいは課長術といったものが多かったのだが、本書はそれらとは違い「生き方」を術を伝授した一冊である。ビジネススキルと言うよりもどちらかというと哲学や宗教、心理学と言ったところに傾いているように思える。そう考えると本書は「異色」の一冊と言える。

第1章「比べるから、人生は苦しくなる」
人間の心理、と言うより動物の心理として「比べる」という考えは、多かれ少なかれ必ず持っている。しかし組織の場ではこう言った「比較」は自分を追い込んでしまうものになりかねない。ましてや「評価」される機会の多い職業はなおさらそうさせてしまう。
そのことによってどのような感情に苛まれてしまうのだろうか。後ろめたくなったり、被害者意識などが挙げられる。
「比較」からいかに脱するか。なかなか難しいことだが「他人の評価を意識しない」「「利己」と「利他」を一致する」ことなどが挙げられる。

第2章「欲にとらわれないためには」
「欲にとらわれない」と考えると、仏教に近いと思ったのだが、本章でもその「仏教」を引き合いに出している。
「欲」を完全になくすことはできないものの、「我慢」ではなく、むしろ「軸」を作る、もしくは「無我」になることで一心不乱に前の仕事をこなすことによって「欲」に振り回されることはない。

第3章「結果ではなく、経過を重視する」
とは言え現実は「欲」なくしては、成長は難しく、企業社会では生き延びることは不可能に近い。
ではどのように生きていけばよいのか、そこで本章のタイトルにある「経過」を意識するようにすると良いという。

第4章「ダメな自分を好きになる」
「失敗したっていいじゃないか 人間だもの」
相田みつをの言葉である。章の内容とは異なるものの「失敗」にしても「ダメ」にしても同じことが言えるのではないかと思い、この言葉を取り上げている。
人には「長所」と「短所」が必ず存在しており、非の打ち所のない人間は一人もいない。
「ダメ」な所、つまり「短所」があると、それを「コンプレックス」として捉えたり、直さなければならない所として捉えてしまう。「ダメ」な所は確かに直すべき所ではあるが、まずは「ありのまま」を認めることから始める方がよい。「ダメ」な所が重荷となってネガティブな感情に苛まれてしまうからである。

第5章「相手を変えようとしないこと」
時に失敗があると、やれ「上司のせいだ」、やれ「部下のせいだ」と他人に責任を転嫁させる様な感情を持ってしまう。時にはそれを口に出してしまい、他人に「変われ」と押しつけることによって、互いの関係がギクシャクするようなこともある。
そうさせないためにはどうしたら良いのか。簡単である。「もしも自分が相手の立場になったら」「これは他人にこう教えられなかった自分の責任」と言うように「自責」とすることにある。自責とする事によって、自分を変えることができる。

第6章「失敗しても、何度でもやり直す」
仕事においても、プライベートにおいても必ずと言っても良いほど「失敗」と言う言葉は必ずある。長い社会人人生の中には規模は違えど「失敗」を体験する。逆にそれをしてきた人が全くいない人は見たこともない。見たことがあったとしても「何もしなかった人」という烙印を押されるだけだろう。失敗したらこれで人生が終わりとなることもごく稀にあるのだが、そのリスクを背負ってゆくことによってチャレンジを続けていくことこそ、成功をしていく「道」と言える。

第7章「自分の器を大きくする」
自分の持っているお茶碗の器を大きくしろと言うことではない。
人間力を大きくしろという章である。人間力を大きくするには、色々あるのだが、「当たり前なことを当たり前にやる」というこの一言につきるのではないだろうか。簡単なことのようだが、大人になっていくことによってそれが重要だができていないことも多いのだから。

最近では様々なノウハウが書かれたビジネス書が多数乱舞している。それもそれでビジネススキルを伸ばすのには良いことであるが、それが故に「自分はデキる人」と錯覚に陥り、他人への感謝も蔑ろにしてしまう人も少なくない。本当の意味での「成長」とは何なのか、それは仕事スキルの「成長」、あるいは人間における「成長」、その両方当てはまるのだが、むしろ後者の「成長」が蔑ろに鳴ってしまっていることを危機に思って著者は本書を出版したのではないかと考える。