民具学の基礎

「民具」とはそれぞれの地域の慣習によってつくられた道具、もしくは家具のことであり、大蔵大臣を歴任した民俗学者の渋沢敬三によって名付けられた。日本には地域によって様々な民具が誕生し、使われてきているが、本書ではその民具がいかにしてつくられたのか、という歴史的、あるいは地理的な観点などを織り込みながら考察するとともに、「民具学」という新たな学問の礎を築いた一冊である。

一.「民具研究の軌跡」
「民具」と一括りにしても世界に視野を広げてみると、その国々の歴史まで裾を広げる必要があるため、本書では日本における「民具史」や「民具学」についてを展開している。
「民具」にまつわる研究が始まったのは近代に入ってからのことであり、明治時代初頭にエドワード・S・モースが生物の研究材料の採取の傍ら、日本人の暮らしや家具に深い興味を持ち始めたことが始まりである。

二.「民具の諸相」
様々なものやことが時代とともに変わるとともに、民具も例外ではなく時代や需要によって改良したり、誕生したりしてきた。本書ではその時代とともに変わる民具を衣食住や労働、あるいは宗教など用途に併せて紹介している。

三.「民具研究の視座」
民具研究の一例として漆器や人形の歴史やつくられ方について紹介をしている。研究というと、史料を用いて考察を行う考えが強いが、「民具学」はどちらかというと「民俗学」のようにつくられ方や地域を直接見聞して考察を行う、いわゆるフィールドワークも多い。

四.「世相史からみた身辺の民具」
世相は「世の中そのものの有様」を意味しているように、その時代の生活を象徴する民具を取り上げている。明治・大正・昭和時代それぞれの民具が紹介されている。昭和時代の民具とは言っても、「電気釜」など高度経済成長を象徴づけられるものも取り上げられているため、「民具学」と言えども古くさいイメージ、というよりも親近感があるように思える。

五.「在来民具の再生と継承」
前章の最後で「古くさい」イメージではなく親近感があると言ったが、「民具学」がいかに私たちの生活に親近感を持っているのかを紹介している。伝統工芸はもちろんのこと、プラスチックやステンレス容器などの誕生についても本章にて取り上げられている。

六.「民具の総合的考察」
「民具」そのものの考察と言うよりも、用途ごとにどのような歴史を辿っていったかの考察を行っている。
七.「民具展示論」
私自身、博物館には年に一度くらいしか行ったことがないが、博物館にいくと目に付くのは昔あった民具の化石や欠片、あるいは民具そのものが展示されているのを目にする。
民具の展示を象徴付けられるものとして「歴史」を物語らせるものとして、が多い。
ここでは民具がいかにして展示され始めたかを考察している。

私はこれまで「民俗学」にまつわる本をいくつか取り上げたことはある。しかし「民具学」は本書に出会うまで「み」の字も知らなかったと言っても過言ではない。「民俗学」をも「歴史」や「地理」とも親近感があり、かつ私たちの生活に密着している学問としての「民具学」、本書はその学問の誘いとなるような一冊と言えよう。