アイヌの世界

北海道出身である私にとって「アイヌ」は切っても切れない、というよりも北海道とアイヌは切っても切れないものである。小学校時代の時にはよくアイヌに関する授業も受けたことがあり、地名もアイヌ語からきているものも多い。

しかしそのアイヌ民族はいったいどのように伝えられており、かつ文化や言語が栄えたのか、本書はそれらの考察を行っている。

第一章「DNAと言語からみたアイヌの起源」
本書における考察の中心は「アイヌは縄文人の子孫か?」という命題である。その考察を先ずは「DNA」と「言語」について考察を行っているが、「アイヌ語」はわずかばかり知己はあるものの「縄文語」は全く知らない。それについてある程度知らなければ本章はあまり理解できない章と言える。

第二章「縄文の祭りからクマ祭りへ」
「クマ祭り」はアイヌ文化の中核の一つとして形成された。その「クマ祭り」と縄文文化にある「イノシシ祭り」の関連性について考察を行っている。

第三章「阿倍比羅夫はだれと戦ったか」
本書の中核の一つである「阿倍比羅夫」は七世紀中頃に活躍した越国(現在の新潟県?)の越国守りをつとめていたが、あることがきっかけとなり戦隊を引き連れ、蝦夷地へ戦いに赴いた。これは「日本書紀の「比羅夫遠征」」にて記されている。
しかしこの遠征には一つ不可解なところがある。「だれ」と戦ったのかである。最初の文章から見ると「アイヌ民族」と戦っただろうと思うが、記録によると「渡嶋蝦夷」と「粛慎」を討ったとある。本章ではその二人の存在を中心にだれなのかを考察している。

第四章「アイヌ文化の日本語・マタギ文化のアイヌ語」
アイヌ語の中には日本語から拝借したものもいくつか存在する。その多くが信仰や儀礼に関するものであったと言われている。
そしてもう一つのアイヌ語を醸成したものとして挙げられるのが、東北地方の狩猟のための特殊な儀礼を行った人々を指す「マタギ」が挙げられている。

第五章「オホーツク人になろうとしたアイヌ」
オホーツク人とアイヌ人の違い、そしてアイヌ人が抱いたオホーツク人への憧れについて考察を行っている。オホーツク人とは、

「3世紀から13世紀までオホーツク海沿岸を中心とする北海道北海岸、樺太、南千島の沿海部に栄えた古代文化の担い手」

という民族である。

第六章「黄金国家とアイヌ」
「黄金国家」と言うと「黄金の国ジパング」を思い浮かべてしまう。これは日本全体のことをいっているのだが、北海道も例外ではなかった。
北海道でも道東オホーツク海側を中心に砂金がよく採れる地域として知られており、近世初期には本州から砂金堀りに来た人も多かったという。

第七章「謎の「宝の羽」を追って」
「ケシイラフツウイテクル」という鳥とその鳥の「宝の羽」の謎について追っている。ちなみに「ケシイラフツウイテクル」とはワシ科の鳥であることはわかったが、それ以外のことは一切謎である(辞書や百科事典ですら存在しなかった)。

第八章「アイヌモシリ一万年の景観史」
アイヌ文化の風景として著者の居住地であり、かつ私の故郷である旭川の風景を中心に映し出している。そのため本章に出てくる写真のほとんどが私にとっては馴染み深かった(かつて通学路として通っていた場所も存在した)。

アイヌ文化の歴史、そして縄文人との関連性、そしてそこから醸し出されるアイヌ人の姿を映しだしたのが本書と言える。