民話の森の歩きかた

「民話」と言うと聞き慣れない人あ多いのかもしれない。しかし「童話」と聞けば子供の頃に親しんだことを思い出す。
しかしこの「童話」も元々民衆の中で伝わった話、いわゆる「民話」の形で今日親しまれている。
本書はその民話のなかから「シンデレラ」や「赤ずきん」「長靴をはいた猫」などよく知られる話を精神学・文芸学の角度から考察を行っている。

第Ⅰ章「シャルル・ペローとヴェルサイユの民話」
シャルル・ペローの昔話と言えば連想するのが「眠れる森の美女」、後で考察する「赤ずきん」「シンデレラ」「青ひげ」「長靴をはいた猫」が挙げられる。そのペロー作品とルイ14世の絶対王政の中で生まれた「ヴェルサイユ文化」の関連性についてを取り上げている。

第Ⅱ章「世界の民話「シンデレラ」」
第Ⅰ章にて「シンデレラ」はシャルル・ペローによって生み出されたが、その後にマリアン・コックスらが考察を行いつつ、世に知られるような話に変貌を遂げていった。その変遷は中々知られていないだけに新泉である。

第Ⅲ章「ペローとグリムの「赤ずきん」」
本章と次章では「赤ずきん」をペローとグリム兄弟がつくった作品との比較である。グリム兄弟と言えば、数多くの民話作品を生み出したが、その多くはグロテスク、かつ残酷な結末が待っているモノが多く、今日で知られている童話はその残酷・グロテスクな部分を取り除いている。

第Ⅳ章「「赤ずきん」と「ヘンゼルとグレーテル」」
精神学の中でも著名な所ではフロイトがあるのだが、そのフロイトの影響を受けた学者が「精神分析」をもとに「赤ずきん」と「ヘンゼルとグレーテル」の比較を行っている。最初にも精神学の観点から考察を行っていると書いたが、ここがその中心と言える。

第Ⅴ章「「青ひげ」とジル・ド・レ」
民話の中でも最もグロテスクで恐怖の印象が強い「青ひげ」であるが、そのモデルとなったのが、ジャンヌ・ダルクの戦友であり、フランス国の元帥であったジル・ド・レである。またイングランド国王ヘンリー8世の説もあるが、伝奇作品「Fate/Zero」でも前者を取り上げているだけに有力な説と言えるため、ここでも前者の説を採用している。その「青ひげ」とジル・ド・レの関連性について史実と作品と双方を比較した上で本章にて考察を行っている。

第Ⅵ章「「長靴をはいた猫」の政治学」
一見異色に見えるような考察であるが、そのストーリーを見ると猫と王との駆け引きがそうさせていると言えば含蓄がいく。

第Ⅶ章「つごうのよすぎる「いばら姫」」
第Ⅲ章にも書いたように本来あるような話を解釈、もしくは作り替えるようなことをする事が多い。とりわけそれはグロテスクや残酷・残忍な内容を取り除くためにあるのだが、「いばら姫」のように元々都合良く書かれているものもあるのだという。

第Ⅷ章「民話の語りとその資料」
そもそも「民話」と「童話」の違いは何か。そして「民話」はなぜ存在するのか、という命題の考察が行われているが、その「民話」を資料を開設と共に一つ一つ紹介しているのが本章である。

民話は長い歴史の中で幾千の人が語り継がれた物語であるが、その語り継がれる過程の中で様々な変化を遂げていった。その変化について歴史・史料から読み解きつつ、その森の如き奥深さを知る、というのが本書のねらいなのかもしれない。