シリーズ「中勘助~流麗と幻想の間で」~3日目 「思い出」を「流麗」に描いた「銀の匙」

シリーズ「中勘助」はいよいよ最後を迎えました。
最後は、このシリーズのメインとなる「銀の匙」を取り上げます。

<「銀の匙」ができるまで>

この「銀の匙」が書かれ始めたのは1910年であり、約2~3年ほどかかりました。ほぼ完成したときに夏目漱石に送ったところ「きれいな日本語」と絶賛・推挙を受け、東京朝日新聞の連載にこぎ着けました。1913年の話です。(ちなみに東京朝日新聞の連載は1913年4~6月、及び1915年4~6月と前後編に分かれて連載されました)

その連載が反響を呼び、岩波書店から単行本化されたのが1921年、やがて現在見る文庫になったのが1935年のことでした。今も愛されている文庫本版のものは75年以上経った今でも愛され、「灘中~」でも取り上げた通り、「超スローリーディング」の教材としても扱われるほどでした。

<「銀の匙」の魅力とは?>

先程も書きましたが夏目漱石が絶賛するように「きれいな日本語」であることに尽きますが、その日本語は刊行された1910年当時のものですので、若干難しい表現や漢字が存在するのも否めません。

しかし「難しい」と「多彩」は紙一重と言えるように、表現の幅を広げたい、もしくは日本語の可能性を広げたい、当時の時代背景を見てみたい、と言う人には本書を読むだけではなく、書写(ノートに書き写す)などをする事もおすすめいたします。

<「銀の匙」を見てみる>

著者が子供の頃に買い、取っておいた銀の匙(スプーン)を見つけ、それとともに少年時代の思い出を回顧している作品である。

執筆した時期が1910~1913年の時で、銀の匙が取り上げた時代は20世紀になる前の時と言えます。その時代における子供の遊びや学校、さらには社会について如実に表している印象でした。

人間模様も回顧しているせいか、事細かに記されており、読めば読むほど面白さが出てくる、という印象もありました。

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<おわりに>

当初は「銀の匙」だけを取り上げようと思っていました。
しかし、その「銀の匙」を読んでいくうちに、中勘助という人物は何物なのか、
そして彼は「銀の匙」の他にどのような作品を生み出したのか、と言うのを知りたくなり、今回のシリーズを行おうと考えました。

今回の作品で最も難しかった点、それは「作品の選定と入手」にありました。
「銀の匙」や「犬」「提婆達多」と言った作品は一般の書店でも出回っているのですが、他の小説や随筆と言った作品は刊行そのものが古く、かつ一般の書店でも扱わない、もっと言うと、図書館でも書庫から探さないと無いと言うほどでした。

そういったプロセスと紹介のなかで気付いたのが一つ、まだまだ中勘助に限らず埋もれている作品がまだ残っているのはある、と言うことです。

自分自身もその気付きによって、自分自身も埋もれていた本を紹介しながらその価値を広める使命感を再認識した、シリーズでした。