ベースボール労働移民 —メジャーリーグから「野球不毛の地」まで

今年におけるプロ野球ペナントレースは後半戦に差し掛かっており、再来週の19日・20日にはオールスターゲームがやってくる。それが終わるといよいよクライマックスシリーズに向けた戦いが激しくなるため、どんどん楽しくなる、と行っても良い。

日本の野球のみならず、野球界はメジャーリーグや韓国リーグなど世界中で様々な野球リーグが存在する。そのリーグには「助っ人外国人」といった外国人の選手が存在する。その助っ人外国人をやるべく「労働移民」として、母国を離れ世界各国へ渡るプロ野球選手もいる。本書は、世界各地にいる外国人野球選手の現実についてアメリカ・メジャーリーグの今について追っている。

第一章「ベースボール・レジーム―慣用するスポーツ労働移民の枠組み」
世界におけるプロ野球リーグは日本やアメリカ、中国、韓国、台湾をはじめ、メキシコやドミニカといった野球大国、ニカラグアやイスラエル、イタリアといった野球発展途上国まで存在する。
しかし各国の野球リーグはアメリカ・メジャーリーグを目指すためのファームのような役割を担っている国も少なくない。日本は必ずしもそうとはいえないが、メジャーリーグへの踏み台と考えている野球選手も存在しているところから、ファームの役割に扱っている選手もいる。そう、本章のタイトルである「ベースボール・レジーム」はこのことを表している。

第二章「文化ヘゲモニーからベースボール・レジームへ―ドミニカ」
ドミニカ共和国はいうまでもなく日本やアメリカ以上の「野球大国」である。今年の2月・3月に行われたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で全勝優勝したのも当然といえる。
当然と言い切った理由として、ドミニカ国民の多くはプロ野球選手を望んでおり、学校の野球のみならず、プロ野球でもメジャーリーグにたつために絶えず鎬を削っている。
しかし、野球大国と呼ばれているが故に、野球に対する才能次第でエリートコースにいくか、それとも貧困の状態に陥るのか、という二者選択の狭間にいる。強烈な競争の中で選ばれたドミニカの野球選手はメジャーリーグにとっても格好の逸材であり、ドミニカで球団のベースボール・アカデミーで英才教育を受けることができるという。

第三章「「抗争の場」としての野球場(エスタディオ)―メキシコ」
メキシコのプロ野球リーグは、メジャーリーグの下部組織である「3A」に位置づけられているように、メジャーリーグに昇格するためのファームと化している。メキシコのプロ野球リーグは他のリーグと同じように地方のアイデンティティがあるのだが、メキシコではそのアイデンティティの色が濃く、しばしば「抗争の場」として扱われている。

第四章「「プロ野球選手」というバケーション―イスラエル」
イスラエルは中東国として珍しく野球リーグが存在するのだが、アメリカや中米カリブ、アジアと比べると発展途上の段階にある。それ故か「野球不毛の地」として扱われることが多い。

第五章「開発援助が生むプロアスリート―ジンバブエ」
野球発展途上の国はイスラエルやニカラグアばかりではない。西アフリカに位置しているジンバブエもまた野球発展途上の一つである。
ジンバブエは国際的な開発援助の恩恵を受けているのと同時に、野球やサッカー選手の養成をおこない、野球ではアメリカに、サッカーではヨーロッパや南米に所属させるといった、いわゆる「筋肉流出」が起こっている。

第六章「「脱領土化」した周辺としての独立リーグ―日本・韓国・中国」
野球先進国の一つである日本や韓国、中国はそれぞれの国のリーグでも互いに切磋琢磨をしているのだが、「アジアシリーズ」という名の下にシーズンオフ後に各国のトップチームと戦うことによって「領土」という壁を取っ払ってアジアとして野球を強くするという試みを行っている。

野球における「労働移民」と各国のプロ野球界の現状が一手にわかる一冊といえるのだが、サッカーよりも国際的な理解が乏しく、2004年を最後にオリンピックの種目から除外され、サッカーなどの球技も台頭するなど、認知も下降の一途をたどっている。その中で野球はどこに向かうべきなのか、本書は野球界の現状を知るとともに、未来の為にどう考えるかを与えてくれるヒントをくれる一冊である。