ハイエク ―「保守」との訣別

日本もそうであるが、アメリカやヨーロッパ各国では形は違えど、「資本主義」によって経済は回っていると言える。資本主義といえども、様々なものがあり、「自由資本」や「社会資本」といったものまであるのだが、本書で紹介されるハイエクこと「フリードリッヒ・ハイエク」は自由市場をもとにした資本主義論者であると同時に、批判者でもあった。また、今日の経済にある「自由資本主義」の根幹を定義した論者としても知られており、経済学者のみならず、経済学を専攻していない方でも名前だけでも知っている、と言う人も少なくない。
本書はハイエクが遺した経済における理論としそうはいったい何なのかを紹介している。

第1章「景気循環論」
ハイエクが経済学者として提唱した理論はいくつもあるのだが、経済学者になった当初から研究対象となったのが、「景気」である。ハイエクは北欧学派のアイデアに刺激を受けて、研究が始まったとある。景気循環の中身にはバブル(景気・崩壊)も言及している。この「景気循環」を巡って対立していたのは「貨幣論」で知られ、アメリカにおける「ニューディール政策」の元となった(ジョン・メイナード・)ケインズであり、大学全体にまで及ぶほどの大論争を巻き起こした。

第2章「社会主義批判」
社会主義は貧富の格差が出てくる資本主義の社会矛盾を解決すべく生まれた国家・経済主義である。民主党や社民党、共産党ら左派学者・論者が口を揃えて主張する「格差是正」も社会主義としての主張と言える。
ハイエクは博士号をもらう以前は社会主義論者であったのだが、博士号を取得する前後でオーストリア学派の文献に触れてから自由経済主義者となった。それから社会主義批判を始め、1945年に社会主義をはじめ、共産主義など、資本主義と相容れない考え方を批判した、「隷属への道」を発表した。

第3章「競争と市場」
資本主義、それも自由資本主義にいたっては嫌と言うほど「市場競争」という言葉が絡んでくる。自遊に関しては次章の「自由論」があるのでここでは割愛するが、ここでは競争における秩序と思想について紹介している。

第4章「自由論」
ハイエクは「自由の擁護者」と主張しているように、「自由主義者」であるのだが、はたして、どのような形の「自由」を定義しているのだろうか、その証拠として1960年に「自由の条件」を発表している。「自由の条件」はかつて「アダム・スミス」が定昇した自由主義が現代にも通じることを証明づけたこと、そして次章にもある「ルール論」によって支配されていることにあるという。

第5章「ルール論」
「ルール論」とは簡単に言えば「法律」によって支配されているところにある(法の支配)。法律は立法府(日本で言うところの「国会」)が行われる、しかし立法府はその権限を濫用してはいけないということを「自由の条件」にて述べている。

第6章「企業活動とその規律」
「自由の条件」には企業活動における規律も取り上げている。代表的なものとしては「自由な競争」を保持するために、独占の禁止と独占者における差別の禁止がある。「独占の禁止」と言えば日本のみならず、アメリカ、ヨーロッパ各国、中国で制定されている。

第7章「全体主義批判と構造」
「隷属への道」では、社会主義のみならず、共産主義など「全体主義」と呼ばれるイデオロギーと闘ってきた。その背景にはソ連の存在と冷戦が挙げられる。

第8章「自由市場と社会的責任」
高度経済成長期の頃から「企業の社会的責任」が使われ始め、10年ほどあたりから「CSR」という言葉が使われ始めた。それだけ企業は社会における責任を持つ必要があるのだが、社会的責任を提唱したのは江戸時代からある。有名どころでは近江商人の「三方よし」とよばれるものがある。
今で言われる「社会的責任」を持ちつつ、第6章で述べた「独占禁止法」によって守られる自由市場との関連性について本章では紹介している。

第9章「福祉国家批判」
第1章でケインズと長きにわたって批判を行ってきたと書いたが、ケインズが提唱したものの中に「福祉国家」の概念の基礎を確立させた。しかし自由主義を提唱したハイエクは「発展させる自由な社会を脅かすもの(p.185より)」として批判した。

第10章「ハイエク社会哲学の保守性と非保守性」
本書のサブタイトルには「保守との訣別」とある。ハイエクは「自由主義論者」ではあれど、「保守主義者」ではない。それは既存の価値観に戻ることではなく、自由な形で「変化」をすることから、「変わりたくない」意味合いをもつ「保守」とは異なると著者は主張している。

ハイエクが築き上げた功績や理論は全集にしても10巻以上存在しており、一つ一つ読み解いていくとなかなか難しい、本書はハイエクが提唱した理論をハイライトという形で紹介しているのだが、どちらかというとハイエクを知る上である程度の入門知識がなければ読み解くことは難しい、いわゆる「中級者向け」の一冊といった方が良いかもしれない。