消滅した国の刑事

「消滅した国」と言うと、戦争により国を失った人のことを連想してしまうのだが、実際の所そういったストーリーではなく、この物語に関連するのは「東ドイツ」のことである。冷戦が終わったことの象徴であるのだが、「東ドイツ」が本書のタイトル、そして本書の核となる事件の真相との関連が横たわっている。

前振りが長くなってしまった。本書の舞台は2003年の冬のドイツ・ベルリン、役目を終えたビルの中から変死体が発見された。その変死体の頭部にはヤギの頭が取り付けられている不可解な死体だった。

死体を巡って刑事・検事・被害者の周りの人物が織りなす人間模様がストーリーを二重にも、三十にも膨れ上がらせる。

「冷戦」が終結し、ベルリンの壁が崩壊したことの「史実」と、「史実」に横たわっている「格差」や「差別」、その史実を巡って、複雑でありながら展開が二転三転していく。
推理小説でありながらも一気に読めるような本ではなく、むしろ二転三転するストーリーと登場人物達の交錯が本書を2倍も3倍もおもしろくさせられていると言うところが印象的である。