欲情の文法

文章を読んだり、書いたりしていくと不思議な感覚に陥る。小説には小説の、ビジネス書にはビジネス書の、研究論文には研究論文の、そして書評には書評の「書き方」や「文法」が存在する。

本書で紹介する「欲情の文法」にある「欲情」は、官能小説における文法を紹介している。
・・・そう考えると新書でありながらR-18指定にできる様な気がするのは私だけか。

第一章「文章だけで興奮させる魅惑のエンターテインメント」
小説は文章から、ストーリーや動作を連想させて楽しむものであるが、官能小説は文章から性的な興奮を得ることができる。それは文章から妄想を楽しむ事ができ、官能小説だと、擬似的に性的行為をする事ができるからである。そのことから官能小説は本章のタイトルにあるとおり「魅惑のエンターテインメント」である。

第二章「興奮させる鍵はキャラ設定にあり」
著者が書く官能小説の主人公の年齢と状態は決めている。その理由は単純に著者の嗜好によるものである。きっかけは著者のつらい初体験があったのだという。読者にその体験を味合わせないように、著者が織りなす官能小説には童貞喪失体験をふんだんに盛り込ませている。女性の設定にしても、時代物から現代物まで細かく設定しており、設定によっては女性の感じ方も変えている。さらに著者の性体験も赤裸々に綴っており、それが官能小説の原材料の一つとしても使われている。

第三章「ストーリー展開は予定調和の成長物語」
官能小説のストーリー展開は独特であるのだが、著者は独特の中にも「定番」の展開を入れている。その定番の展開の中で、現代物や時代物、さらには登場人物の違いを見せる。他にもテーマや章立てなども心を掴むように文字数などを制限することで小説を描くスピードを上げるようにしているという。
他にもストーリー展開で官能小説独特の見せ場を示すために、一文だけで終わるようなものを人物描写など多用して、妄想を膨らませるように文字数を稼ぐような手法を使って、じっくりと快感を味合わせるように描いているような事を記している。

第四章「人を悦ばせる言葉と表現」
官能小説は男女の体について非常に難しい用語を使っている。主に「医学用語」が中心になるのだが、難しい言葉を加えることによって、官能的な表現の中に奥ゆかしさを際立たせる。また比喩や用語・表現と言った所にも、性的な興奮をかき立てるようにちりばめている。難しい用語だけでは無く、「・・・(リーダー)」と呼ばれる表現にもためらいや戸惑いを見せるように表して、読み手をじらし、より興奮させるようにしているのだという。

第五章「男と女の性とフェティシズム」
男性が女性に関する特定の部分が好きになることを「フェチ」と呼ぶ。フェチは性的な悦びを見出すのに格好の嗜好であり、それを無くして性的な興奮を沸き立たせることはできない。しかしフェチは男性にしかなく、女性にはそもそも存在しないのだという。

第六章「官能小説を400冊書き続けた私の方法」
最後に著者自身が400冊書き続けてきた中で得てきた、作家としての「習慣」と仕事についての考え方である。本章はむしろ「作家としての生き方」という位置づけであり、官能的な所は存在しないので、官能ものが嫌いな人であれば本章から読む方がおすすめと言える。食生活からネットを含めた調査、さらには、アイデアの出し方や文章上達のための読書についても記している。

・・・恥ずかしながら私も官能小説はいくつか読んだことがある。初めてそれを読んだのは高校受験のころであったことを覚えており、その時は立ち読み程度であったが、性的興奮を催したことをはっきりと覚えている。
私事はここまでにしておいて、文章のパターンは使われ方によって無限に限りなく近いほどになる。本書は官能小説としての文法を紹介しているのだが、「武器としての教養」をコンセプトにしている星海社新書として本書はおそらく、最も「異色」と言える一冊である。正直言って新書版のエロ本を読んでいる感じがしてならなかった。