性犯罪報道

性犯罪の事件が後を絶たない。しかしその性犯罪の事件はメディアではあまり報道されることがない。しかし、性犯罪の被害を受けた女性達は今もなお、性犯罪の苦しみにもがき続けている。

性犯罪がメディアで取り上げられない理由、それは「人権」にまつわるものもあれば、ある種の「タブー視」があるのかもしれない。

本書は読売新聞が性犯罪の現状について、被害者の取材をもとに明かしている。なお、本書は読売新聞で2010年2月より「性暴力を問う」というコラムを連載したものを出版に合わせて一部改訂している。

第1章「被害者たちの叫び」
被害者たちはどこに打ち明ければ良いのかわからない方もいる一方で、実際に被害に遭われた方の中にはHPで体験を公表し、反響のメールをもらう方もいれば、掲示板で自分自身の被害について訥々と告白する方もいる。
他にも裁判員裁判にて性犯罪が取り上げられることも少なくなく、裁判員裁判で求刑通りの厳刑になったものもあれば、求刑を上回る厳刑となった判例もある。

第2章「病巣」
本章では逆に加害者の側から、「なぜ性犯罪を行うのか」について取り上げている。大元の原因としては、

・「支配欲」「(性的な)ゆがみ」
・AVなどの作品の影響
・夫婦や恋人間のストレス

などが挙げられる。その対策として性格などは矯正していく、影響であれば規制していく、と言う考えが根強いのだが、そもそも多種多様な人間がいるなかで性暴力を回避する、と言うことは一面的に解決することは難しい。ましてや解決の方法も規制や矯正に賛同する者達の「エゴイズム」も入っているのではないか、とさえ思う。

第3章「奪われた笑顔」
幼い頃、近しい存在から受けた「性暴力」という被害の傷跡は、一生涯トラウマとなって残る。その性被害について数年~十数年の長きにわたる被害を受けた人も少なくない。
その傷跡を隠したり、抱え込んだりしている方々について取材を行い、裁かれないことへのジレンマ、そして他の子供を性被害から救うために行っていることについて綴られている。

第4章「海外からの報告」
性犯罪は日本に限ったことではない。アメリカ、韓国、インドなどでは法律が作られたり、抗議デモがあったりする事が現に起こっている。本章では海外における性犯罪の対策について取り上げている。

第5章「今、法廷で」
性犯罪における裁判は刑事・民事両方にて行われている。刑事であれば懲役刑を、民事であれば慰謝料の請求が中心となる。特に刑事事件については第1章でも取り上げたが裁判員裁判にかけられることもある。その中で被害者はどのようなことを語ったのか、そしてプライバシーは守られているのか、という裁判の課題は山積している。

性犯罪は今も昔もあり、それを根絶することは非常に難しい。しかしその犯罪を防ぐだけでは無く、傷を癒すための支援をする、加害者を厳罰にするために支えられる機関も存在する。だが最初にも言ったとおり、メディアではあまり取り上げられないものである。その要員としては被害者のプライバシーもある。性犯罪事件の「見えない残酷さ」、そして「取り上げられない悲しさ」、「相談できず、泣き寝入りせざるを得ないもどかしさ」という複雑な感情が本書を読んでひしひしと伝わってくる。性犯罪事件は起きてはいけない、起こしてはいけないという未然に防ぐということ、その残酷さを一人でも多く伝えていくことが本書を出すねらいであり、なによりも性犯罪を知る上での重要な手段と言える。