会社は頭から腐る 企業再生の修羅場からの提言

けっこうショッキングなタイトルであるが、企業の規模が大きくなる、あるいは存続し続けるにつれて、見えないところで「澱」が出てくる。その「澱」が「頭から腐る」という要因になる。それは経営者を変えたとしても、会社そのものが変わらない、あるいは会社の中にどっぷり浸かっている人が経営者になったとしても、全く変わらないと著者は長年、会社を建て直し続けてながら気づいた。

本書は「会社再生」をし続けた立場から企業はどうあるべきか、事業とはどうあるべきか、そして一会社員としてどうあるべきかを提言している。

第1章「人はインセンティブと性格の奴隷である [経営と人間]」
会社は1人でやっている所もあるのだが、本書で言う「会社」は複数人によって組織される集合体として扱う。たいがい「会社」というと社長・会長がトップにいて、その間に課長・部長といった中間管理職がいて、さらにその下に平社員がいる。そういった組織の多くは「ピラミッド型」で表されるのだが、実際にサラリーマンから経営者に登れたとしても、本当に経営はできるのかと言う疑問が出てくる。それが如実に表れるのは「経営危機」に陥ったとき、それは本当に会社のために貢献してくれているのか、もしくは自分のエゴイズムで昇進を続けていったのか、という「本性」が見えてくる。
また、人間や組織と言われる集団は「インセンティブ(情)」と性格の奴隷であり、それは合理的な判断を求められるような経営の場でも表されているのだという。

第2章「戦略は仮説でありPDCAの道具である [経営と戦略]」
経営やプロジェクト、事業などでよく使われる「戦略」とは何なのか。辞書では、

「戦術より広範な作戦計画。各種の戦闘を総合し、戦争を全局的に運用する方法。転じて、政治・社会運動などで、主要な敵とそれに対応すべき味方との配置を定めることをいう」「広辞苑 第六版」より)

という。しかし著者の言う「戦略」は、

「持続的な競争優位を構築する合理的な施策の体系である」(p.78より)

という簡単に言い換えると、
「1つでも多く利益を生み出すことを持続させるメカニズムを生み出すための対策」
と言える。そのためには経営の教科書にかじりついて理論を学んでいても、経営の力は身につかない、事業を行い、経営の教科書にあるPDCA(Plan・Do・Check・Act)を繰り返しながら進めていくことが大切である。

第3章「組織の強みが衰退の要因にもなる [会社の腐り方]」
日本の経営は合理的であり、組織的であったという。しかしそれは長年持続し続けると、腐る原因にもなり、昨今のような不祥事が起こる要員にもなり、さらには衰退の原因にもなる。しかも年功序列は既に景気が最高潮に達していた80年代には既に崩れており、岐路に立たされているにもかかわらず、多くの企業は現状維持、あるいはかぶれ(良い物をそのまま利用しようとすること)をしている。

第4章「産業再生の修羅場から臨床報告 [現場のカルテ]」
著者は「産業再生機構」のCOO(最高執行責任者)として、多くの経営危機に陥った企業を再生してきた。その企業は本章にて列挙しているが、中には有名企業も存在している。その経験の中から「臨床報告」として傾くような会社の傾向を紹介している。

第5章「ガバナンス構造を徹底的に見直せ [予防医学その1]」
「ガバナンス」と言う言葉を初めて聞く人もいるかもしれないので、ここで説明しておく。ガバナンスとは、

「統治・統制すること。また、その能力」「広辞苑 第六版」より)

という。企業を成長するために、必要な統治能力が経営者、あるいはそれに準ずる人に備わっているかどうかによって会社が傾くか、あるいは成長するかの明暗が分かれる。

第6章「今こそガチンコで本物のリーダーを鍛え上げろ [予防医学その2]」
会社を腐らせず、常に成長し続けるためには「人材」である。強いリーダーを1人持っていても、数年経てば腐らせてしまう。だからでこそ「リーダーを鍛え上げる」事を続ける事によって、経営危機に陥ってもしぶとく残ることができる。

昨年、中国大陸の古典「貞観政要」を取り上げたのだが、政治として一番難しい物として「守成」を挙げた。それは新しいリーダーになったとしてもそれがおごり高ぶるようになってしまい、成長はおろか、企業そのものの志を失ってしまう要因になってしまう。そのため本書はどのような危機でも耐える、そして腐らせる事無く会社を育てるリーダーを持つことが重要であることを主張している。