南部芸能事務所

お笑いの現場には様々なドラマがある。それは例えば芸能事務所の劇場もあれば、寄席の現場にもある。本書は芸人を志した青年が相方を探し、漫才師として初舞台に立つまでの事を描いている。

表紙、及び本書の中にある写真の多くは寄席をイメージされているのだが、それもそのはずで取材協力として上野にある「鈴本演芸場」だという。そこは落語もさることながら、漫才も1日に数組行われているため、お笑いの舞台とも言える。

最近では「漫才ブーム」や「若手芸人ブーム」が下火となっている状況なのだが、それでも芸人を志す人は少なくない。芸人を志し、師匠に弟子入りする人もいれば、お笑いを中心にしているプロダクションの養成学校に入る(吉本ではNSC、人力舎ではスクールJCAなど)と言った方法がある。しかし本書はその両方でもなかった、それもそのはず、主人公が所属している事務所は弱小と言われている事務所であり、研修システムは備わっていなかった。でもシステムは備わっていなかった分、下積みをやりながらもひたむきに成長していく姿がそこにはあった。

今日の漫才の様な芸人養成や師匠の元で修行すると言うようなスタイルでは無いけれども、自分の漫才とは何か、と言うことも考えさせられた。
その中でも特に印象的な所として、

「ツイッターやブログでファンを増やしている芸人はいる。やるべきかもしれないと悩んだ。イケメン芸人と持て囃され、見た目だけで俺達のファンになった女の子もいて、そう言うファンは喜んでくれるだろう。
 でも、俺は漫才をやって認められて先へ進みたい。子供の頃、じいちゃんに連れられて浅草に寄席を見に行った。スーツを着て舞台に上がる漫才師に憧れ、ああなりたいと思った。俺にとってヒーローは、ウルトラマンでもスポーツ選手でもなくて、漫才師だった」(p.171より)

新しいファンを集めようとして最新のものを取り入れるべきか、その一方で芸人としてのプライドを保つべきか、という葛藤を描いている。今も若手を中心に多くの芸人がブログやツイッターをやっている、超大御所である内海桂子師匠(ちなみにナイツの師匠)もツイッターをやっているということだけは付け加えておく必要がある。

とは言え、漫才師になるまで、そしてなってからの葛藤というのがよく見える一冊だった。