言霊 大伴家持伝

言葉には色々な意味があり、力がある。とりわけ「力」の部分では、「言霊」と言われるのだが、奈良時代の歌人で、三十六歌仙の一人である大伴家持は5・7・5・7・7の短歌から織りなす風情を彩り、現在でも万葉集や小倉百人一首などで伝えられている。

本書はその歌人の世界において「言の葉」でもって世を鎮めるという試みをした側面から描かれている。そもそも日本最古の歌集である「万葉集」は大伴家持の時から親子二代で40年、全て編纂し終わった後も、天皇からの国書指定に35年もの歳月がかかったと言われている。その中で平城京の奈良時代から、平安京へ遷都し、天皇家と藤原家の複雑な関係を持つようになった。

そのような歴史を小説ならではの捜索ながらにして、さしずめ「ファンタジー」の要素も併せ持ちながら描かれている所は、評伝ではない、創作ならではの魅力も溢れており、それでいながら大伴家持という人間を描き切っている所が魅力的であった。