ミッキーはなぜ口笛を吹くのか~アニメーションの表現史

今、巷で放送しているアニメの本来の言葉は「アニメーション(Animation)」と呼ばれており、

「少しずつ動かした人形、または少しずつ変化させて描いた一連の絵などを一こまごとに撮影し、これを連続映写して動きの感覚を与える映画・テレビ技法。漫画・劇画映画・テレビ番組の制作に使用。また、その映画・テレビ番組。動画。アニメ」「広辞苑 第六版」より)

という意味がある。しかし日本のアニメは相も変わらず海外では人気を呼び、日本のアニメのことを英語で「ジャパニメーション」と呼ばれる事もある。
本書はアニメーションということをフォーカスして、アニメーションそのものの歴史とはいったいどの様なものか、と言うことを考察している。

第一章「アニメーションとヴォードヴィル」
世界で始めてのアニメ映画(と言うよりも「アニメーション映画」)は1906年にアメリカで作られた『愉快な百面相』である。アニメと言ってもグラフィックを使っている訳では無く、作者が絵を描いて、消すと言った動画のようなものである。この当時の「アニメーション」は人前で絵を描くことが主流で、同様の映画も作られた。

第二章「『リトル・ニモ』―ウィンザー・マッケイの王国(一)」
アニメーション初期のことを語る際に外せないのは「ウィンザー・マッケイ」である。「アニメーションの創始者」として名高い存在で、本章で紹介する「リトル・ニモ(1911年)」や次章で紹介する「恐竜ガーティー(1914年)」といった作品を生み出していった。
「リトル・ニモ」は元々1905年からニューヨークヘラルド紙、1911年からはニューヨーク・アメリカン紙にて掲載されたマンガ作品をアニメ化したものである。しかしこのアニメは「アニメ」として扱われたわけではなく、「アニメーションの実験」として扱われた。

第三章「『恐竜ガーティー』―ウィンザー・マッケイの王国(二)」
マッケイの真骨頂となった映画は1914年に公開された「恐竜ガーティー」である。論客の中には1930年頃から隆盛を極めたウォルト・ディズニー作品に匹敵しうるほどのものとも言われているが、著者はそれを観て違和感を覚えているのだという。

第四章「商業アニメーションの時代」
アニメーション映画初期の時代はなにもマッケイの独占市場だったわけではない。他にもジョン・ランドルフ・ブレイの「クオリティ・キッド」や「テディ・ベア(現在あるテディ・ベアとは別物)」といった作品がある。他にも色々なアニメーターやアニメーション監督が誕生し、アニメーションそのものが商業化の一途を辿っていった。

第五章「科学とファンタジーの融合―フライシャー兄弟」
アニメーションと科学は切っても切れないものである、これはアニメーション技術の中にも取り入れられており、本章でも取り上げられている「ロトスコープ」も科学における「発明」として持て囃された。これをもってアニメーションに新風を巻き起こしたのが、マックス・フライシャーとデイブ・フライシャーの「フライシャー兄弟」である。

第六章「映像に音をつける」
映画でも同じようなことだったのだが、当時のアニメーションはサイレントであった。それに「音」が付いたのは1920年代と言われているが、それ以前にもサイレントの時代においてちょっとだけ音を入れると言った試みがあった。

第七章「ミッキーはなぜ口笛を吹くのか」
さて、本書のタイトルである。インパクトがあり、ましてやミッキーのアニメーションを観ると口笛を吹く仕草はよく見られる。中でも本章で取り上げられているのは1928年の「蒸気船ウィリー」である。
(以下の動画38秒あたりを注目して欲しい)

この時の口笛の仕草が気になったのだが、日本におけるTVアニメ初期の仕草とも似ていると指摘している。

第八章「ベティ・ブーブはよく歌う―フライシャー兄弟の復活」
第五章で紹介されたフライシャー兄弟だが、1920~1940年初期までは隆盛を極めていたが、1941年の末に経営が急速に傾き、自ら設立した会社に解雇されてしまった。
本章で言う「フライシャー兄弟の復活」は1930年代のことを言っている。ロトスコープのアニメが隆盛を極めていたが、次第にウォルト・ディズニー作品が隆盛して行っただけではなく、1934年に映画作品に厳しい検閲を課す「ヘイズ規制」がハリウッドで制定されたことで、勢いを失っていった。その勢いを失う以前に2つヒット作品を生み出していた。どちらも日本では有名なものであり「ポパイ」と本章のタイトルにもなっている「ベティ・ブーブ」である。

第九章「トムとジェリーと音楽と―スコット・ブラッドリーの作曲術」
私自身も小さい頃は良く視聴し大爆笑をしていた「トムとジェリー」だが、最初に作られたのは1930年代後半のことである。元々は4コママンガや風刺マンガと言われていたのだが、BGMの技術など先鞭を切ったものもある。

第十章「ダフィー・ダックに嘴(くちばし)を」
最後に登場するのはワーナー・ブラザーズが制作したアニメ「ルーニー・テューンズ」に出てくるダフィー・ダックである。セリフの破裂音が特徴的だが、同時に嘴(くちばし)にも特徴があることで知られている。

1910年代からはアニメーションの創生期であり、さらにウォルト・ディズニーが活躍した30年代以降は「アメリカン・アニメーションの黄金時代」とも言われていた。このアニメーションが後の日本のアニメにも少なからず影響を与えており、アニメづくりの草分けとも言われていた。本書はアニメにおける表現が創生期からどのように変化していったのか、細やかな所まで考察を行った一冊である。