いじめ問題をどう克服するか

「いじめ」問題は後を絶たない。私の記憶では1994年に起こった愛知県西尾市中学生いじめ自殺事件が一番古い。その後にもいくつかのいじめ事件があり、いったんは沈静化を見せたものの2006年以降、再びメディアでクローズアップされた。

そして本書でも取り上げられているが2011年には「大津市中2いじめ自殺事件」が起こり、学校・教育行政などの不信感が一気に増大した。
その中で「いじめ」はどのように克服できるのか、本書は元教員であり、最近ではTVで「尾木ママ」と呼ばれている教育評論家・尾木直樹氏が教育現場におけるいじめの現状と、その解決策を提示している。

第1章「繰り返されるいじめ問題」
私が「いじめ問題」について覚えているのは最初にも言ったとおり、1994年以降のことである。それ以前にもいじめが問題視されており、連続TVドラマの題材にもなった。著者はいじめが起こった時期を3つのピークに分けて説明している。

第1のピーク:1985~1987年(大阪産業大学付属高校同級生殺害事件など)
第2のピーク:1994~1996年(愛知県西尾市中学生いじめ自殺事件など)
第3のピーク:2006年以降(滝川高校いじめ自殺事件など)

この時期は「いじめ」に関してメディアなどで取り上げたが、そもそも各々のピークにはどのような特徴があるのだろうか、当時の学校背景や文化(流行)なども照らし合わせている。

第2章「いじめが見えなくなるとき―変わるいじめの構造」
今日、「いつ」「どこで」いじめが起こってもおかしくないと言われているが、実際のいじめの現場はいったいどのようなものだろうか。著者はその特徴を3つに分けている。

1.日常化
2.流動化
3.透明化

この3つの要素により、教師や親から「いじめ」の現状が見えにくく、いじめられっ子も逃げ場がなくなり、深刻化の一途を辿っていく、そして最悪な形が自殺や殺人事件に至らしめるほどにもなる。

第3章「なぜ、いじめは深刻化するのか―大津事件からみえてきたもの」
2011年に起こった「大津市中2いじめ自殺事件」は他のいじめとは異なり、教師や教育委員会の隠蔽体質が浮き彫りとなり、教育現場のいじめに対する対応について大いに取り上げられた著者も遺族側の要望による第三者委員会の委員として事件の全容解明に当たった経緯から、本章を取り上げている。

第4章「いじめ問題を繰り返さないために―国・地域・学校の取り組み」
「大津市中2いじめ自殺事件」を受け、政府では翌年「いじめ防止対策推進法」が可決・成立された。このいじめ対策は、事件当時、与党で会った民主党はもちろんのこと、現在の与党である自民党も重要視しており、対策のためにどのような法律を立てるか、あるいは対策を講じていくべきかが議論された。

第5章「いじめ問題を克服するために」
前章までのことを踏まえて著者自らが考えるいじめ克服のための助言を取り上げている。「教育目標を根本から問い直す」こともあれば、「第三者機関」の創設、「いじめ問題のとらえ方」に至るまで様々である。

「いじめ問題」は「社会問題」の一つになって久しい。しかし根本的に解決できるかというと、多様性からかなかなか難しくなってきている現状もある。その中で教育現場として、教育行政として、さらには国として、この「いじめ問題」をどのように捉え、解決して行くのか、そのメッセージを伝えた一冊と言える。