スポーツ・インテリジェンス―オリンピックの勝敗は情報戦で決まる

「インテリジェンス」と言うと、辞書的な意味では、

「(1)知能。知性。理知。
(2)情報。」「広辞苑 第六版」より)

とある。しかし巷で見かけるインテリジェンスはむしろ、軍事的な意味での「情報戦」という役割を担っていると言っても過言ではない。この「インテリジェンス」の言葉をオリンピックなどのスポーツに当てはめられるかと言うと、スポーツの舞台でも相手の特性や戦術などの情報をつかみ、対策を取ることはもはや常套手段である事から、「スポーツにもインテリジェンスは存在する」と言える。取り分けそういったインテリジェンスの重要性はオリンピックを始め、トップスポーツの世界では重宝される。もちろんこれから三位決定戦と決勝戦を迎えるブラジル・ワールドカップも然りである。
本書はスポーツにおけるインテリジェンスの重要性とその駆け引きについて解き明かしている。

第一章「進化するトップスポーツの世界」
オリンピックというと、個人が、団体がそれぞれのパフォーマンスで戦うスポーツとされているように見えるのだが、実際にはその裏に練習や戦術など様々な人たちの支えがある。特に準備戦略にしても、練習や食事、生活などオリンピックを照準に合わせてメニューを組んでいったり、練習にしてもオリンピックを照準に合わせたシミュレーションを組んだりする。実際に練習・本番共に戦略が組まれるようになることで、記録も質も飛躍的に良くなったのは明白である。

第二章「スポーツ・インテリジェンスとは何か」
「インテリジェンス」は軍事的な印象が強いと書いたのだが、その理由としてCIAやMI6などの情報局でよく使われるイメージを持ってしまう。最近日本でも「日本版NSC」でインテリジェンスを行う期間をつくると言う動きもある。最初に辞典的な意味を紹介したのだが、実際にインテリジェンスは「諜報活動」や「情報分析」などを担っている。そこから得られたものから戦略やシミュレーションを行っていくのでインテリジェンスなくしては相手をきちんと分析することができなくなる。
ではスポーツでの世界ではそういった「インテリジェンス」は必要なのか、というと絶対不可欠である。相手の弱点や強みなどを分析し、勝つために戦い方を組み立てていく必要がある。だからといって諜報活動といっても、相手の練習場に潜入するという野暮な話しはなく、むしろ大小問わない大会でのビデオを入手すると言ったものがあるし、最近ではウェブの進化もある事から相手の情報を動画サイトなどから容易に手に入れる事ができる。

第三章「オリンピックの舞台裏で何が行われているか」
「オリンピック」と「インテリジェンス」は、何もスポーツだけではない。オリンピック誘致活動もまた「インテリジェンス」が存在する。ここでは2002年に始まったオリンピック誘致活動の一部始終を綴っているのだが、もっとも本書が出た後の9月に2020のオリンピックが東京で行われる事が決まった。

第四章「戦う選手団「チームジャパン」を作る」
オリンピックは国際的な大会であると同時に、国の威信、選手のプライドを賭けて戦う舞台であると同時に、オリンピック憲章にもあるとおり「参加することに意義がある」と言うことを体現して参加している選手もいる。基本的に前者が大多数であるため、本章でもそれをチーム一丸となってつくっている状況について取り上げている。

第五章「マルチサポート・ハウスをめぐる決断」
「マルチサポート・ハウス」と言う言葉はあまり聞き慣れないのだが、「マルチサポート」はいわゆる医学や科学の観点からスポーツにおける身体能力、体、さらには心をサポートすることから「マルチサポート」がある。その集合体として「マルチサポート・ハウス」があるわけだが、実際に2008年までのオリンピックでは設置されていなかった。ようやくハウスの必要性を見出し2012年に設置に向けて動き出した。

「スポーツ・インテリジェンス」はオリンピックのみならず、現在行われているサッカーワールドカップを始めどのスポーツ競技・大会で行われている事である。身体能力を賭けて戦う、その裏に、コーチや後ろにある団体の「情報戦」が直接的、間接的に勝敗を分ける。チーム戦もさることながら、個人戦ももはや個人だけが戦うのではない、そう言っているような気がした一冊である。