落日の譜―雁金準一物語

団鬼六氏は今から3年前に亡くなられたのだが、彼が生み出した作品の多くは「官能作品」、それもSMものが非常に多かった。一時期断筆するものの、そののち親交のあった最後の真剣師・小池重明の生涯をつづった「真剣師・小池重明」がベストセラーとなり脚光を浴びた。もともと著者は大の将棋好きで、「将棋ジャーナル」の刊行にも尽力を尽くしたと言われている。もちろん自身もアマチュア将棋の競合でアマ七段の資格を持っているほどである。

その著者がなぜ遺作として囲碁を取り扱ったのか、もう亡くなられているので謎であるのだが、囲碁への羨望もあるのではないか、とも見て取れる。

本書は囲碁をよく知っている人でもあまり知られていない人物「雁金準一(かりがね じゅんいち)」の生涯を取り扱っている。雁金純一は、明治~昭和にかけて活躍した囲碁棋士で、十七世・十九世の2度度にわたって本因坊を襲名した本因坊秀栄の門下生であり、本因坊継承の渦中にもいた。秀栄の婦人などの後押しはあったものの、実力的に相手の田村保寿が上だったこともあり、別の人が二十世本因坊を襲名した後に田村が二十一世本因坊秀哉を襲名してから本因坊争いから完全に身を引いた。しかし囲碁棋士としての実力はあり、新聞社主催の対局にて本因坊を襲名した秀哉とは互角の戦いだったという。

残念なことに本書は未完の状態で絶筆を迎えることになってしまった。もちろん本書には解説として雁金のことを知る棋士の解説も含まれているので、完全とまではいかないけれども理解できる。その後雁金はどのような結末を迎えたのだろうか、そしてどのような姿だったのだろうか、それは読書の想像にゆだねる形となるのだが、それでも雁金の姿を知る絶好の一冊といえる。