膨張する監視社会 個人識別システムの進化とリスク

アメリカでは9.11以降「監視システム」がドンドン広がりを見せ、電子化をする事も相まって「市民識別管理」にシフトされていった。市民一人一人にID番号が振られ、その中には膨大な個人情報が入れられるようになった。市民をIDで番号にして、1枚のカードに膨大な個人情報を入れて、監視する、以前慶応義塾大学のジョン・キム教授が定義した「逆パノプティコン社会」と呼ばれる社会が具現化していると言っても過言ではない。本書はアメリカにおける監視社会の現状と問題点について切り込んでいる。

第1章「書類を要求する」
IDにはありとあらゆる身元情報が国によって管理されている。以前にも国や市町村などで身元情報を書類にて管理を行っており、ことあるごとに本章のタイトルにある書類の要求がたびたび起こっていた。今となっては名前さえあれば番号を割り出し、身元情報などを引き出すことが容易にできるようになっている。しかもその情報を一元化するために、ありとあらゆる監視を行い、IDの中に取り入れられる。

第2章「整序システム」
整序は簡単に言うと「ソート」と呼ばれ、カテゴリーごとに割り振られたり、順序に並べたりする。カテゴリーというと、色々あるのだが、本章で言うカテゴリーでいうと、前科があるかないか、年収がどれくらいなのか、スラムに住んでいるかどうか、会社を倒産させたかどうか、というようなカテゴライズをされることを指している。そのことによって市民権がどうなのか振り分けられやすく、序列もたてやすいことからシステムとして形成づけられた。
本章の中に気になる部分を見つけた。アメリカで実施した以前に、カナダでもIDによる管理が行われていたのだ。

「1940年、第二次世界大戦中のカナダでは、全ての国民が記録され、IDカードを持たされるという国民制度が導入された。この制度は、産業は政府に「必要な」人々と、徴兵され得る人々と区別する考えに基づいていた。」(p.56より)

国民全てが徴兵される可能性のある異常な世界であるため、一元管理が必要になったのかもしれないが、そういった管理によって、徴兵できる国民、あるいは工場へと働かせる国民とを効率的に分けることができる効果があったことから採用されたのかもしれない。

第3章「カード・カルテル」
国民一人一人にID番号が振られ、カードが発行される。しかしカード発行会社はどうなるのか、という疑問点ができてしまう。それと同時に、本章にあるカード発行の「カルテル」が起きるというリスクを指摘している。

第4章「拡大したスクリーン」
「スクリーン」は簡単に言えばコンピューターに表示されるものを指しているが、本章ではそれのほかに、情報を絞り出し、表示する事のできる「権利」を有している人をさす「隠語」としても用いられる。それが「拡大」するということは、政府高官クラスの人から、極端な話であるが、町場の警察官でも身元情報が閲覧できるようになるということを表している。

第5章「ボディ・バッジ」
いわゆる「生体認証」のことを言い、顔の輪郭の情報から指紋情報、あるいは静脈情報にいたるまで、その人であることを証明するために厳正に管理することができるためのシステムとして用いられる。実はこの「ボディ・バッジ」の情報もIDにて管理されているのだという。

第6章「サイバー市民」
第5章までどのような情報が管理されているのか、取り入れられるのかを紹介してきたのだが、それらを総称して、「サイバー市民」というくくりになるのだという。当然個人にまつわるありとあらゆる情報は電子的に管理される。電子的に管理されているということはサーバーの記憶装置にて管理される。その管理されている情報を閲覧する、抜き取るためにはサイバー上でサーバーに対して抜き取り・閲覧の命令を行う必要があるのだからサイバーの中で解決されるから名付けられた。

アメリカでは今もなお「監視社会」が続けられている。その監視のあり方は第二次世界大戦中のカナダと方法は同じだが、媒体がサイバー上で行われている所に違いがある。もちろん日本でも国民全員にIDが割り振られる「共通背番号制度(マイナンバー)」が議論され、2016年の使用開始に向けて動き出しているそうだが、これもアメリカと同じような考えから採用されるのかどうか、定かではない。