あっぱれ町奉行―江戸を駆ける

「町奉行」は江戸時代にある仕事の一つで、現在で言う所の「裁判官」や「検事」という職業を指す。しかも一般的に町奉行というと地方の御奉行様の事を連想してしまうのだが、実際は江戸町奉行が「町奉行」と呼ばれたのだという。身分も勘定奉行や寺社奉行と同じくらいの身分で幕府の政治にも携わる立場であったから、武士ほどではないものの、身分は高かったと見て取れる。

町奉行の前説はここまでにしておいて、本書は江戸時代、三代将軍・家光が亡くなった後に生きた町奉行が奔走した実在の人物をフィクションの形で取り上げられている。三代将軍・家光の死後はまさに「難治」と呼ばれた時代があり、1651年に起こった「慶安の変」、翌年に起こった「承応の変」が起こり、天災も1657年に起こった「明暦の大火」が起こり、政治的にも四面楚歌の状態だった。

とりわけ2つの変は三代将軍・家光が行っていた「武断政治(武力を背景にして行われる専制的な政治)」により、大量の浪人が生み出し、幕府に対する不満を与えてしまった。しかし、そこで町奉行が出てくる。老獪ながらも町奉行ながら上司らにたてつきつつ、浪人たちを始め、身分の低い者たちに対してやさしく、それでいて痛快な解決を行った者がいたという。「人のため」とはいったい何なのか、小説ながら学び取れる格好の一冊と言える。