天才の秘密 アスペルガー症候群と芸術的独創性

「アスペルガー症候群」とは

「広汎性発達障害の一型。言語や認知の発達の明らかな遅れはないが、何らかの脳機能障害によって、対人関係とコミュニケーションの障害、物や習慣へのこだわり、環境の変化に対する過敏性など、自閉症特有の症状を生じる」「広辞苑 第六版」より)

とある。人・モノ・環境による過敏性が強く、それにより精神的に滅入ってしまうような症状を起こす病気なのだが、「病気」と考えてしまうとネガティブな印象を持ってしまうのだが、逆にそれが「芸術的独創性」を生み出しているとしたらどう考えるか。本書は実際に「アスペルガー症候群にかかったであろう」作家・哲学者・音楽家・画家をスポットに当てて、アスペルガー症候群が独創性にどのような効果をもたらすのかについて考察を行っている。

第Ⅰ部「アスペルガー症候群と作家」
まずは作家だが、イギリス文学の代表格であるジョナサン・スウィフトを始め、推理小説の草分け的存在であるアーサー・コナン・ドイル、さらには童話でおなじみのハンス・クリスチャン・アンデルセンなどが挙げられている。それぞれ生い立ちを綴った自伝・評伝などからアスペルガーを示す理由について取り上げつつ、それが創作にどのような影響を及ぼしたのかを分析している。

第Ⅱ部「アスペルガー症候群と哲学者」
哲学者ではイマヌエル・カント、スピノザ、シモーヌ・ヴェイユが取り上げられている。哲学は人間としての在り方はもちろんのこと、思想に対する思考など、私たちではとうてい及ばないところまで思考の網を張り巡らせている。そのため思考や志向、嗜好の部分で普通の人とは全く異なるようなものを持っているのは言うまでもないのだが、思想の中にアスペルガーがもたらされているものがあるとするならば、哲学の論考の中にもアスペルガーの産物があるという証明にもなる。

第Ⅲ部「アスペルガー症候群と音楽家」
アスペルガー症候群の中には音楽や歌にこだわりを持ち、強く興味を持つ人もいる。もちろん作曲家の中にもアスペルガーと思われるような行動や思考、心情があったというのだが、本書で取り上げられているのは音楽家の中でも最も有名なヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン、エリック・サティ、ベーラ・バルトークと言った作曲者が挙げられている。

第Ⅳ部「アスペルガー症候群と画家」
本書はアスペルガーによる「芸術的独創性」について考察を行っているが、最後は画家である。画家で名を馳せた人の中にも精神的に破綻をきたした人は何人か存在するが、アスペルガーにかかった画家もいるのだという。名を挙げるとフィンセント・ファン・ゴッホなどがいる。

有名な人物でもアスペルガーを公言はしていないものの、自伝・評伝などからアスペルガーらしき行動や言動・心情を持っていたということを証明づけているという。ただ、これだけ入っておく必要があるのだが、本書は決してアスペルガー症候群を称賛しているわけでもないし、ましてや非難をしているわけではない。アスペルガー症候群が悪い側面ばかりではなく、芸術としての独創性がある一面があるのでは無いか、という仮説にもとづいて取り上げられているわけである。もちろんアスペルガー症候群の研究は完全では無い。これからアスペルガーがどこまで研究されていくのか本書がそのカギになるかどうかは定かではない。