サッカーと人種差別

本書のタイトルからして日本は他人事のように思ってしまったのだが、今年の3月に起こった「ある事件」を機に、他人事ではなくなった。それは今年3月8日に行われた、浦和レッズ対サガン鳥栖とのJ1戦において、「JAPANESE ONLY」という横断幕が大問題となり、無観客処分になった事例がある。他にも最近では中指をたてるような行動が問題視された。人種差別はサッカー競技に限ったことではないのだが、本書ではサッカーにフォーカスを当てている。

第1章「人種差別、その事件簿」
今年4月末以降にあった「バナナ」の事件の他にも2000年以降何度も起こっているのだという。本章では代表的な事件を11個取り上げているのだが、選手同士の侮辱もあれば、横断幕における差別なども挙げられている。その差別の種類も肌の色だけではなく、居住地、性癖などにも及ぶという。

第2章「個人史のなかの差別―バーンズ、アネルカ、カランブー」
実際に起こった差別事件は実を言うと氷山の一角であり、選手によっては「差別」を長年闘い続けてきた人もいる。本章ではジョン・バーンズ、ニコラ・アネルカ、クリスティアン・カランブーの3人が受けた「差別」の数々を取り上げている。

第3章「差別と闘う人びと」
差別と闘っているのは別に選手当人だけのことではない。サポーター組織内でも、チームを地元に置く地域などでも行われているが、ここでは欧州にフォーカスを当ててFARE(欧州サッカー反人種差別行動)にまつわる活動を取り上げている。

第4章「コスモポリタンのレッスン」
そもそも疑問符だったのが「バナナ」がなぜ「差別」の象徴とされているかである。それは、

「サッカーと人種差別の関係を調べていくなかで、いちばん頭にきたのは、バナナという果物が黒人の属性として固定されていることだった。お前らは猿なんだから、バナナを食ってろ、という侮蔑・・・・・・」(p.190より)

という。黒人差別として、黒人を人間と思わず猿と思う象徴として取り上げられているのだという。この「バナナ」をはじめとした差別への対策として立ち上がったのが「コスモポリタン(国境や国籍にとらわれず、世界を股にかける人。国際人)」である。代表的な人物として、2006年から2年間サッカー日本代表監督を務めたイビチャ・オシムが挙げられる。

本書はサッカーと人種差別を基軸にしているが、実際には人種だけでは無く、様々な「差別」がスポーツ界には蔓延っている。人種差別というと、当ブログでも何度も取り上げたのだが、1968年メキシコオリンピックでの「ブラックパワー・サリュート」と呼ばれる運動があった。それとは形は異なるもののスポーツと「差別」は歴史と共に変化しているが、根本的に解決はしていない。もちろん人種差別撲滅に向けての動きは進んでいるのだが、日本でも海外でも起こっている現状を見ると、まずは今起こっていることを知る必要が先である事を思い知らされる。