詐欺の帝王

詐欺事件というと、10年ほど前からずっとメディアで出てきているのが「振り込め詐欺」である。その「振り込め詐欺」は当初「オレオレ詐欺」と呼ばれていたのだが、著者の取材のなかで、「オレオレ詐欺の帝王」と呼ばれる人物がいたのだという。その人物はいったいどのような経歴があったのか、そして「振り込め詐欺」とアウトローの世界の接点とは何かを追っているのが本書である。

第一章「「伝説の詐欺帝王」前史」
「オレオレ詐欺の帝王」と呼ばれた人物の過去は企業の中間管理職のよう風貌だったのだが、元々暴力団とのパイプがあった。しかし実際に半グレや暴力団に所属したことがなく、ましてや企業舎弟になったこともなかったため、「カタギ」と呼ばれる存在だった。大学には行った頃からイベント・サークルを次々と立ち上げたという。そのイベントのなかで暴力団とのトラブルが起こったのだが、その仲裁に入ったことにより、暴力団とのつながりができたという。

第二章「五菱会のヤミ金が原点」
「五菱会」という名前は、

「当時、山口組は五代目組長・渡辺芳則の時代だった。五菱会の名は五代目の「五」と山口組の大門である「菱形に山」から取った「菱」を組み合わせたもので、渡辺が五菱会と名づけている」(p.46より)

とあり、山口組直系のヤミ金集団である。帝王はその五菱会と関わりを持つようになったのは、広告会社から追われた時のことであるという。

第三章「システム詐欺とは何か」
オレオレ詐欺やそれに含まれる振り込め詐欺は「特殊詐欺(システム詐欺)」と総称される。被害額としては2013年度で約489億5000万円(警察庁「特殊詐欺の認知・検挙状況等について」(平成25年・確定値)より)に上る。

第四章「ヤミ金からシステム詐欺に」
ヤミ金は今でも残っており、なかには有名な金融会社を騙った会社名でお金を貸し、法外な利息をむしり取る所もある。しかしヤミ金の法規制はもちろんのこと、時代の流れもあり、ヤミ金から架空請求や振り込め詐欺などの「システム詐欺」にシフトしていった。

第五章「鉄壁の経営とトラブル」
振り込め詐欺をはじめとしたシステム詐欺のグループの組織構造はまさに会社そのものだった。しかしそのグループでも順調に運営できているところもあれば、トラブルが起こったところもあった。その中でも襲撃事件に巻き込まれたり、税務署に目を付けられたりするところもあった。

第六章「システム詐欺と暴力団」
暴力団とシステム詐欺の関連性は、「オレオレ詐欺の帝王」の関わりがあったといえる。もっとも帝王は山口組系の組長との親交もあったということから、つながりは少なくなかった。

第七章「思いついたイラク・ディナール詐欺」
そして帝王は新たなる詐欺を思いついた。それが「イラク・ディナール詐欺」である。その経緯は帝王が2006年以降ちょくちょく海外へ遊ぶようになったのだが、その中で、ドバイで見つけたのがディナールだったという。そこで思いついたのだそうだ。

時代が変わるとともに詐欺の形も変わってくる。昔からある詐欺も現在の形に変わっていくのと同時に、技術に合わせた新しい詐欺も出てきている。また詐欺の手口も巧妙化の一途をたどり、警察の目の抜け穴をねらってくるようなものもある。ではどのようにして詐欺被害に遭わないようにすべきか。

「日本人には圧倒的にマネー教育がなされていない」(p.201より)

この言葉は詐欺師から発した言葉であるが、日本のビジネス書にも同じような回答をしている人が多々いる。この言葉がおそらく詐欺被害に遭わないための本質を突いている、と言える。